生命維持治療拒否権:日米の裁判例を素材にして
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概要
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生命維持治療技術が長足に進歩し,いままででは当然死亡したような患者の生命を維持することが可能となった。しかし,死が目前に迫っているにもかかわらず生命維持治療を施す結果,安らかな死を迎えることができる人は少なくなった。そこに,生命維持治療の差し控え,中止の問題が登場してきた。<BR>この生命維持治療の差し控え,中止は,1970年代のアメリカの裁判例の中で患者の権利として認められるようになった。わが国でも,1994年5月に日本学術会議「死と医療特別委員会」は,「尊厳死について」を報告し,生命維持治療の差し控え,中止を正面から肯定した。また,1995年3月には,横浜地裁は東海大学安楽死事件判決で,治療行為中止の要件について述べた。<BR>ところで,人間は自分の身体を何の制約もなしに完全支配しているとはいえない。しかし,医療技術の進歩が,治癒不可能な末期患者の命をただ引き伸ばすという事態を生じさせるようになったことを考えるとき,終末期状態においては,その状態で長生きすることだけが最高の価値であるとも言えない場合もたしかに存在すると思われる。そうすると,終末期状態にある患者が自分がまわりとの関係の中で生きていることをもう一度熟慮してもなお自らの生命を犠牲にすることのほかには代替手段はないという状況に陥ったとき,自己決定としての生命維持治療の差し控え,中止が許容されるのだろう。
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The Health Care Science Institute | 論文
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