老人福祉財政の決定要因と財政政策
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概要
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本稿の目的は,高齢化社会の進展において上昇を続ける地方自治体の老人福祉費について,その支出規模を決定する要因は何か,またわが国の近年の財政政策,特に国庫負担率の変更がどのような影響を与えたか(または与えなかったか)を検証することである。<BR>老人福祉費の決定要因には,人口高齢化のような人口構造の変化,また地域の福祉サービスに対する需要構造の変化といった外生要因と,自治体の歳入規模および国庫支出金,地方交付税等の国庫補助規模といった内生要因が考えられる。しかし一方で,地方政府の公共支出における増分主義の存在がいわれている。本稿ではこの増分主義の存在を考慮したDDWモデルによって,都道府県のマクロ財政データおよび埼玉,千葉両県の市レベルのミクロ財政データ,さらに老人福祉マップ数値表から老人在宅福祉サービスの実施データを用いて,老人福祉費決定の要因を分析した。<BR>結果は,都道府県レベルのマクロ・データからは,有意にわが国の老人福祉財政における増分主義的傾向の強さが確認できたが,埼玉,千葉の市データをみると,全国傾向にくらべその傾向はやや小さい。また,国庫負担率の大きな改訂がなされた1985年前後の2期に分けた推計では,国庫負担率削減が福祉財政の規模に一見プラスに作用しているように見えるが,地方交付税との関連は見い出せず,国庫負担削減が地方自治体の自主的財政決定を促したかどうか判断することはできない。<BR>一方,地域の福祉サービス需要との関係では,施設を基盤にしたショート・ステイサービスとの間に若干の関係性が見られるものの,ホームヘルプ・サービスは老人福祉費にほとんど影響を与えていない。<BR>これらのことから,わが国の老人福祉費決定には,全体として増分主義的メカニズムが働いており,一連の財政政策の改編による地方の分権的意思決定の助長という期待が,あまり結実していない可能性が示唆される。今後は,福祉ニーズに連動するような支出決定を促す,誘引的な財政メカニズムおよび補助金メカニズムを創出する必要がある。
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