施設園芸農業の維持システム:―茨城県筑西市における小玉スイカ産地の事例―
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概要
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_I_ はじめに<BR> 茨城県筑西市は,施設園芸による小玉スイカ生産の全国最大産地となっている。一般に施設園芸は,産地間競争の激化や農産物価格の低迷,また農業労働力の高齢化や農地の疲弊など,様々な問題にも直面し,産地の興亡が激しい。本報告は,筑西市における小玉スイカ産地の分析から,施設園芸による農業経営の維持システムについて考察することを目的とする。なお,調査対象集落は,耕地に占める施設園芸面積の割合が多く,主業農家のすべてが施設園芸に従事する下星谷集落とした。<BR>_II_ 筑西市における施設園芸の展開<BR>1.産地の発展過程<BR> 対象集落においては,水田面積が少なく,畑地での麦類や陸稲を中心に小規模な商品作物栽培による不安定な農業経営が続いてきた。商品作物のなかには大玉スイカも含まれていたため,1957年より,小玉スイカの栽培が試験的に開始された。対象集落においても,1961年より小玉スイカ栽培が新たな商品作物として開始された。1960年代後半からは,パイプハウス型栽培方法が出現し,この方法が全農家に広まった。これとともに,小玉スイカ収穫後の7月に,後作として抑制トマトの栽培が導入され,小玉スイカ・トマトという作型が徐々に定着していった。また,1960年代半ば以降,陸田造成事業によって水稲作が拡大したが,米の生産調整が開始された1970年代以降は,陸田での施設園芸が拡大し,これが小玉スイカ生産発展の一因となった。とくに,1975年以降,糖度が高く食味の良い品種である「紅こだま」が導入されてからは,小玉スイカの市場価値が大きく向上し,栽培面積がさらに拡大した。そして1988年には,茨城県青果物銘柄産地の指定を受けるにいたった。しかし,小玉スイカによる収入は,バブル期の10aあたり100万円超をピークとして,現在は50~60万円程度にまで低下している。しかし,コスト削減など対応策が取り組まれることにより産地の維持が図られている。 <BR>2.対象集落における農業経営<BR> 集落内の土地利用は,集落の中央部に宅地が集まり,その周囲に施設園芸のビニルハウスと陸田が広がっている。また,集落東部の観音川沿いと南西部の低地に水田が存在する。ビニルハウスでの作物は,小玉スイカと後作の抑制トマトが主体で,ほかにキュウリやレタスなどもみられる。陸田や水田では水稲のほか,転作作物の大豆や小麦,大麦が栽培されている。<BR> 対象集落における主業農家は,1戸あたり1ha前後の施設園芸を家族労働力によって経営している。多くの農家は,小玉スイカと抑制トマトを組み合わせる従来からの作型を続けている。これらの農家では,近年の農産物の価格低下傾向に対して,後述する小玉スイカの新品種の導入や,完熟トマトの出荷といった,商品の高品質化が進められている。一方,小玉スイカ生産を継続しつつも,キュウリやレタスなど,新たな作物を導入する農家もある。これには,農業収入の周年化やリスク分散,販路の多角化,連作障害対策などといった理由が挙げられる。また,水田と陸田は,全ての主業農家によって所有されているものの,施設園芸に労働力を集中させる傾向が強く,集落外の大規模借地農家に,全量または一部を作業委託している。<BR>_III_ 施設園芸農業を支える条件<BR> 対象集落における施設園芸農業を支える条件として,_丸1_小玉スイカそのものがもつ優位性,_丸2_生産・出荷に有利な立地条件,_丸3_新品種の導入・新たな連作障害対策の実現,_丸4_多様な需要への対応による販路の拡大,_丸5_コミュニティ活動を通じた社会的な結びつきと農業経営への貢献が挙げられる。<BR> まず,_丸1_は,大玉スイカに先行して出荷されるために高価格での販売が可能となる。_丸2_は,大消費地に近接することに加えて,冬季の日照時間が長く,無加温ハウスで小玉スイカ栽培が可能であり,暖房経費を抑えることができる。_丸3_は,農協や地元農業資材会社を通じた新品種の導入や,農業改良普及センターの指導による,環境に配慮した太陽熱消毒による連作障害対策の実現がある。_丸4_は,農協部会を通した,契約出荷やギフト商品の拡充,イベントへの出展などによる販路開拓と,地元農業資材会社を介したPB「味良来」の契約出荷がある。_丸5_は,活発な社会的・宗教的行事が,農家間の社会関係の維持・強化をもたらすだけでなく,日常的な農業関係の情報交換の場を提供している。さらにこのことが,集落内の農家が集団で農地を他集落の大規模借地農家に作業委託し,それが不耕作農地発生の抑止力となることにつながっている。これらの施設園芸を支える諸条件が複合的に組み合わさることで,施設園芸農業が維持されていると考えられる。
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