絵画史料とGIS/VRとを用いた近世京都の町並み景観復原
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概要
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_I_.はじめに本研究は,京都全域の3次元都市モデルの近世バージョンの作成過程について報告する.近世京都の町並みを3次元で再現するために用いた,史料・地図データの整備とGISデータ化,3次元化の工程を述べる.これにより得られた成果と知見は,絵画史料から得られる情報をGISで管理し,3次元都市モデルを生成するためのパイロットモデルとして役立つと考えられる.そして,近世京都の町並みを考察する際に,これまでの研究では得られなかった視角を提示できると考え,絵画史料の2次元空間と再現された3次元空間との比較も試みた._II_.2次元情報の整理:GISデータ化への手順(1)空間基盤の作成GISを用いて史料を管理・分析するためには,空間基盤を作成する必要がある.そこで,江戸幕府の京都御大工頭の中井家が作成した『寛永後萬治前洛中絵図(以下,洛中絵図)』(京都大学附属図書館所蔵)を用いて空間基盤を整備した. (2)絵画史料の分析と利用 近世初期の京都の町並みに関する情報を得るために,室町時代から江戸時代にかけて描かれた,「洛中洛外図」の作品群のひとつである『紙本金地著色洛中洛外図六曲屏風』(林原美術館所蔵,以下,池田本)を用いた. 洛中洛外図に描かれている町家で判読が可能なものは236軒あった.そのうち、6割以上が二階建の町家であることは注目すべき点である._III_.3次元モデルの作成:2次元から3次元へ(1)建物京都の市街地のほとんどを京町家が占めている.洛中絵図中の町地には 「3次元モデル自動生成プログラム」を用いて,町家を配置した.このプログラムは,GISデータから京町家を自動生成するものである. (2)門と塀「3次元モデル自動生成プログラム」を応用して,GISデータから得た,屋敷地や神社仏閣などの地割りデータをもとに, 門や塀のモデルを自動で配置できるプログラムを作成した. (3)樹木と人物臨場感を与えるために,樹木と人物を作成・配置した.樹木は,GISで敷地データの内側にポイントデータをランダムで発生させて,そのポイントデータの位置情報をもとに自動的に樹木のモデルが作成されるようにした.人物は,洛中洛外図の人物の画像を切り取り,ビルボードのように作成したモデルにテクスチャを貼り付けた.そして,四条通りにランダムで配置した.また,山鉾を配置して,当時の祇園祭を再現した.(4)ランドマーク御所や二条城などの当時の京都において,特別な意味を持っている建物に関しては,詳細に作りこんだモデルを配置した.とくに二条城には,現在では消失している天守閣を中井家の設計図をもとに再現した._IV_.3次元でみる近世京都の町並み 一対の屏風に描かれた洛中洛外図では、左双に二条城、右双に御所を配置するのが定型となっており、武家と公家という二つの政治勢力を対峙させる、芸術的視点とも解釈できる。しかし、当時の京都を正確に描いた洛中絵図でも、実際に洛中の南西部に武家が、北東部に公家が分布していることが読み取れ、洛中洛外図の描かれ方は当時の都市構造を如実に映し出していることがわかる。ここで,3次元で復原された京都に目を移すと,京都には低層の建物が多く,非常に統一感が取れた町並みであることがわかる.しかし,二条城や御所は、洛中洛外図に描かれているほどには,大きくないことがわかる.天守閣は,歩行者の目線で見える位置が限られており,町家の屋根に登らないと見ることは困難である.しかし,高層建築物が少ないこの時代の京都においては,洛中洛外図に描かれているような大きさは,当時の人々の心へのインパクトの大きさを反映していると解釈することもできる。_V_.おわりに本研究は, GISデータを用いて,絵画史料から情報や材料を整理し,過去の町並み景観を復原する作成過程を報告した.本研究で再現した歴史時代の街並み景観の特徴は,現存する歴史資料に裏付けられたGISデータをもとに作成されている点である.もちろん、データが存在しない部分に関しては、他の時代のデータや、絵画史料から得られる想像力をもって補完する必要がある。本研究で確立した作成手順の利点は、一定の仮説のもとで3次元都市を作成でき、その仮説を可視化できることにある.
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