マゼラン海峡堆積物に記録された過去13,000年間の 全有機炭素・全窒素フラックス変動
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概要
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【はじめに】 最終氷期の大気中二酸化炭素濃度が間氷期に比べて約80-100 ppm低かったことが南極氷床コア中の大気分析によって明らかにされている。氷期の二酸化炭素低下とその後の融氷期における増大の原因については諸説提案されており、その要因の1つとして"生物生産量の変化"が挙げられる。現在のチリ沖は南極周極流を起源とし南緯40度付近を境に赤道方面へ流れるペルーチリ海流と極域へ流れるケープホーン海流が存在する。南極周極流は多くの栄養塩を輸送することから、 この水塊の影響が及ぶ海域では高い生産量がもたらされる。しかしこれまでのチリ沖における海底堆積物を用いた過去の生物生産を明らかにする研究は低緯度のペルーチリ海流域に偏っておりケープホーン海流域ではほとんど行われておらず、チリ沖の生物生産量を詳細に議論するためにもより高緯度の影響も調べる必要がある。南米パタゴニア氷河のフィヨルドの一種であるマゼラン海峡西部域は堆積速度が速いことから1000年スケールでの古環境変動をみるのに適している。そこで、過去13,000年間にわたるマゼラン海峡西部域における全有機炭素含有量・全窒素含有量測定から生物起源粒子フラックス変動を高時間解像度で復元することを目的として本研究を実施した。<BR> 【試料と方法】 海底堆積物試料は2003年「みらい」 MR03-K04航海によってマゼラン海峡西部域太平洋側で採取されたPC3 (52°52'S, 74°05'W; 水深 560 m) を用いた。堆積物中に含まれる全有機炭素含有量(TOC%), 全窒素含有量(TN%)を測定し,沈積流量(Mass Accumulation Rate ; MAR) 法と<SUP>230</SUP>Th-normalization 法を用いてTOC, TNのフラックスを算出した。MAR法は従来用いられてきた手法で、堆積物の年代を決定した層準間で堆積速度をもとにフラックスを見積もる方法である。一方、<SUP>230</SUP> Th-normalization法は各層準における生物源粒子含有量を吸着性の高い放射性核種トリウム230で規格化することでフラックスを推定する方法である。よって従来よりも高い時間分解能での分析が可能となること、沿岸域など陸起源の古い堆積物が突発的に移流してくるような海域では、MAR法よりも定量的な見積もりに有効であると考えられている(Francois et al., 2007)。<BR> 【結果】 MAR法と<SUP>230</SUP>Th法を用いてそれぞれ求めたTOC, TNフラックスは結果が大きく異なっていた。MAR法を用いたフラックスは融氷期に高く、完新世に入って減少する傾向を示した。一方で<SUP>230</SUP>Th-normalization 法では、融氷期に低く、その後の完新世で高い値を示した。MAR法でのフラックス推定は堆積速度の変化の影響を大きく受けることから、融氷期の高いフラックスの値は堆積速度がこの時代に大きかったことによる過大評価ではないかと考えられる。
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