胸腰椎疾患患者の日常生活における活動範囲に影響を及ぼす因子:―6分間歩行距離と運動機能との関連から―
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概要
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【目的】胸腰椎疾患患者では、歩行に介助を要さないものの長距離歩行の獲得が困難で、日常生活の活動範囲に制限を生じていることが多く見受けられる.活動範囲の制限は、身体活動量や運動機能をさらに低下させるという悪循環を引き起こす可能性があるため、その原因となる因子を把握することが重要である.そこで本研究では、日常生活の活動範囲を評価する指標とされる6分間歩行距離(6MD)を用いて、6MDに影響を及ぼす因子を抽出し、その関連性を明らかにすることを目的とした.<BR><BR>【対象および方法】2008年7月~11月の間に、当院で整形外科的に保存治療され、入院および外来でリハビリテーションを行った胸腰椎疾患(圧迫骨折、脊柱管狭窄症、すべり症など)患者のうち、Functional Independence Measure(FIM)移動能力5点以上(監視もしくは自立歩行が可能)であった20名(年齢70.3±14.6歳)を対象とした.なお、対象には評価の目的と内容を説明し同意を得た.評価項目は、臨床的患者背景因子として性別、年齢、神経症状の有無、歩行能力としてFIM移動能力、運動機能として膝伸展筋力(両下肢の平均値を体重比で算出)、Functional Reach Test(FR)、Timed Up and Go Test(TUG)、日常生活の活動範囲の指標として6MD、自覚的運動強度として6分間歩行テストの際のBorg scaleによる下肢および胸部疲労感を用いた.統計学的分析は、6MDと各因子の関連性について、単回帰分析を行った後、関連性が認められた因子を説明変数、6MDを目的変数として、ステップワイズ法による重回帰分析を行った.有意水準は危険率5%未満とした.<BR><BR>【結果】単回帰分析より6MDとTUG(p<0.001)、FR(p=0.004)、FIM移動能力(p=0.021)、神経症状の有無(p=0.044)に有意な関連性が認められた.また、重回帰分析から6MDに影響を及ぼす因子として、TUG(標準化係数-0.564、p=0.003)とFR(標準化係数0.376、p=0.032)が抽出された(寄与率64%).<BR><BR>【考察】我々の結果から、胸腰椎疾患患者では、年齢や筋力などの因子でなく、バランス機能の指標であるTUGとFRが日常生活の活動範囲に影響を及ぼす因子であると示唆された.FRは一定の支持基底面内の姿勢保持能力である静的バランス機能、TUGは支持基底面が変化する状態での姿勢保持能力である動的バランス機能と報告されている.胸腰椎疾患の特性から、脊柱アライメントの変形に伴う可動性の低下や体幹筋群の機能不全が、体幹機能を低下させ、静的および動的バランス機能の両者に影響を及ぼしていると考えられた.以上のことから、胸腰椎疾患患者の活動範囲を拡大させるためには、静的および動的バランス機能の両者を考慮したアプローチが必要であると考えられた.
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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