中高齢者の身体運動能力に及ぼすボールエクササイズの介入効果
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概要
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【はじめに】転倒予防など介護予防を目的とした試みは各地で行われているが,有効な方法については未だ確立されていないのが現状である。今回我々は,一般中高齢者を対象に3ヶ月間のボールエクササイズを実施し,介入前後において身体運動能力を測定して,その介入効果について検討したので報告する。<BR>【方法】対象は,F市保健福祉センター主催の転倒予防教室に参加した一般中高齢者27名(男性8名,女性19名,平均年齢67.1±6.0歳)である。ボールエクササイズは,毎回1時間,週1回の頻度で3ヶ月間合計11回実施された。<BR>全ての対象者に対して,身長,体重,BMI,血圧,閉眼片脚立ち,ファンクショナルリーチ(以下FR),長座体前屈,10m最大歩行速度,握力,膝関節屈伸筋力,足関節底背屈筋力,立位での前後方向における足圧中心の最大移動距離(以下,足圧中心移動距離),足長を測定した。なお,足圧中心移動距離は足長で除して正規化した値(足圧中心移動距離/足長比)を解析に使用した。<BR>測定側であるが,閉眼片脚立ち,膝関節屈伸筋力,足関節底背屈筋力では非利き手側,握力,FRでは利き手側を採用した。足圧中心移動距離はアニマ社製グラビコーダーG-620,膝関節筋力はミナト医科学社製COMBIT,足関節筋力は川崎重工社製MYORET RZ-450を用いて,いずれも等尺性筋力を測定した。介入前後の値の統計学的検定には,対応のあるt検定またはMann-WhitneyのU検定にて行い,有意水準は危険率5%未満とした。<BR>【結果】足関節背屈筋力と握力を除く全ての項目において有意な改善が認められた。なかでも著明な改善が認められた項目は,膝関節屈曲筋力25%,膝関節伸展筋力9%,足関節底屈筋力35%,長座体前屈9%,閉眼片脚立ち5.9秒の時間延長,10m最大歩行速度17%であった。足圧中心移動距離/足長比は7%で,FRの11%ほどではないが有意な改善が認められた。<BR>【考察】介護予防を目的とした教室で実施される運動種目として,筋力トレーニング,ストレッチング,水中運動,ボールエクササイズ,太極拳などが行われているが,今回はボールエクササイズを実施することによる身体運動能力変化について比較検討し,筋力,バランス,柔軟性の改善について確認した。ボールエクササイズは立位姿勢では行われないにも関わらず,閉眼片脚立ち時間は向上しているが,その理由としてバランス能力や下肢筋力の改善が考えられる。ボールを使ったアプローチは,臨床現場において従来より実践されており,理学療法の中に取り入れやすい運動の一つと考える。今後,ボールエクササイズ未実施群との比較や,心理面,生活習慣などへの影響調査を行っていきたい。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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