河川生態系を支える多様な粒状有機物
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概要
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河川では一次生産に加えて, 陸上からの有機物・栄養塩・ミネラルなどの流入があり, 豊富な生物種が維持されている. 日本では森林面積比の高いため, 河川の上中流部の水生生物群集は陸上生態系からの粒状有機物 (POM) の流入に強く依存していると考えられる. より効率的な河川生態系の保全を考えるために, 最新の知見を含めて粒状有機物に関する基礎的知見を包括的にレビューすることを目的とした.河川に存在する有機物は, 倒流木, 粗大有機物 (CPOM : >1mm), 微細有機物 (FPOM : 0.45μm~1mm), 溶存有機物 (DOM : <0.45μm) に分類される. CPOMは物理的・生物学的作用を受けて, より小さな有機物 (FPOM, DOM) へと分解される. 浮遊態および堆積態のPOMの濃度や堆積量は, 流量変動や地形 (瀬淵構造やワンド) の影響を受けるが, 温帯河川では浮遊態のCPOMとFPOMの濃度は, それぞれ0.001~3mgC L-1および0.05~1mgC L-1であることが報告されている.粒状有機物は, 河川生態系における腐食連鎖を支える不可欠な物質である. その生態学的役割として, 1) 水生動物の生息場の形成, 2) 微生物のエネルギーと栄養塩の供給, 3) 水生動物のエネルギーと栄養塩の供給, 4) 下流域や海域への物質輸送などが考えられる. 底生動物や魚類などの腐食性生物による外来性有機物からの炭素・エネルギーの取り込みを, 微生物群集がタンパク源となりながら仲介しているといえる. また, 有機物から水生生物への物質の変換過程において, 河道内の瀬淵構造や周辺部に形成されるワンドやタマリが物理的な貯留装置となり, 生物学的な物質変換を促進する場としての働きを持つ. よって, 流域生態系の保全を目的とした河川の流域管理や自然再生事業において, 有機汚濁を低減するだけでなく, 自然界で生産される有機物の動態, また有機物と生物の相互作用を適切に理解することは不可欠である.
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