伊吹山南麗に分布する中部更新統寺林層の植物化石および昆虫化石に基づく古環境復元
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概要
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伊吹山南麓に位置する滋賀県米原市(旧伊吹町)寺林地域には,寺林I火山灰層および寺林II火山灰層を挟在する中部更新統の寺林層が分布する.寺林I火山灰層と寺林II火山灰層は,高島沖ボーリングコア中のBT60,BT59に対比されており,寺林層の堆積期は酸素同位体比曲線のステージ8の寒冷期から7の温暖期にあたる.<BR>本層からは,チョウセンゴヨウ<I>Pinus koraiensis,</I> コメツガ<I>Tsuga diversifolia,</I> ウラジロモミ<I>Abies homolepis</I>や,ダケカンバ<I>Betula ermanii,</I> シラカンバ<I>B. platyphylla,</I> ミズメ<I>B. grossa,</I> ズミ<I>Malus toringo,</I> キイチゴ属<I>Rubus</I>などの冷温帯~亜寒帯のマツ科常緑針葉樹とカバノキ属・バラ科落葉広葉樹を主体とする大型植物化石とともに花粉化石,昆虫化石が産出する.これらに基づく古環境は,水生植物ホソバミズヒキモ<I>Potamogeton octandrus</I>が生育し,それらに依存するノグチアオゴミムシ<I>Lithochlaenius noguchii</I>やミズギワゴミムシ属<I>Bembidion</I>が生息する小規模な沼沢と,ハンノキ<I>Alnus japonica,</I> キイチゴ属,カヤツリグサ属<I>Cyperus, </I>スゲ属<I>Carex,</I> タデ属<I>Polygonum, </I>ネコノメソウ属<I>Chrysosplenium</I>が生育し,ミズクサハムシ属<I>Plateumaris</I>が共生する湿地が分布していた.また,ヤハズソウ<I>Kummerovia striata,</I> ヨモギ属<I>Artemisia</I>など陽生の草本類が生え,ウラジロモミ,シラカンバ,ミズメの林が広がっていた.主として北側の山地下部では,尾根筋や崩壊斜面にコメツガ,緩傾斜面にウラジロモミ,ハシバミ<I>Corylus heterophylla,</I> ズミ,キハダ<I>Phellodendron amurense,</I> 谷筋にはサワグルミ<I>Pterocarya rhoifolia,</I> オニグルミ<I>Juglans mandshurica</I> var. <I>sachalinensis</I>が生育していた.林床には草本類のカラマツソウ属<I>Thalictrum, </I>ツリフネソウ<I>Impatiens textori</I>などが生え,オサムシ属<I>Carabus</I>が生息する環境が存在した.さらに山地上部ではチョウセンゴヨウ,コメツガ,ダケカンバなどが混生する森林環境が復元できた.<BR>また,寺林層最下部層~中部層下部の植物化石群は,冷温帯上部から亜寒帯に相当するやや乾燥した気候を示す.中部層上部では花粉化石においてモミ属,ツガ属,トウヒ属,カバノキ属の減少とブナ属とコナラ亜属の増加がみられ,より湿潤で温暖な気候への変化が示唆される.
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