単純ヘルペスウイルスを利用した癌に対するウイルス療法
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
ウイルスの特性を利用して,新たな癌治療法を開発するための研究が近年精力的に進められている.とくにウイルスの増殖能を保持させた形で用いる方法は"Oncolytic Virotherapy"として,様々なウイルスを対象に研究・開発が行われ,現在では臨床試験が実施されているものも少なくない.単純ヘルペスウイルス(HSV)を用いたoncolytic virotherapyでは,1991年のチミジンキナーゼ欠損ウイルスによる脳腫瘍治療実験の報告(Science 252,1991)以来,リボヌクレオチド還元酵素,ICP34.5の欠損ウイルスを中心にその有効性と安全性が検討されてきた.しかし,これまでの臨床試験では,高い安全性が証明されたものの有効性においては期待はずれの結果に終わっている.我々は,躯幹部の癌に対してはG207や1716とは異なる弱毒化機序をもつ変異ウイルスの中に,より有効性が高く,安全性についても十分に確保しうるものがあると考えた.検討の結果,選択されたのがHF10である.HF10は多くの癌細胞由来の培養細胞株において極めて良好な増殖性を示すにもかかわらず,マウスに対する病原性はほとんどない.またゲノム上にはL領域の両端に3.9kbpと2.3kbpの大きな欠損があり,変異の安定性は高い.さらに塩基配列決定の結果から,UL56とLATに加えて,UL43,UL49.5,UL55の発現が欠けていることが明らかになった.我々はこのHF10に優れた抗腫瘍作用があることを見出し,HF10療法の可能性を模索してきた.本稿では,oncolytic virotherapyの現状及びHF10を用いたヒトの再発性乳癌,頭頸部癌に対するトランスレーショナル・リサーチの結果について概説する.
- 日本ウイルス学会の論文
日本ウイルス学会 | 論文
- BacteriophageによるSalmonella O-15及O-34抗原の定向性変異に関する研究-1・2-
- 日本脳炎ウィールス中和抗体の吸收試験に関する知見補遺
- 流行性筋痛症(ボルンホルム病)散発発生例よりのCoxsackieウィルスの分離
- Ehrlichマウス腹水癌細胞の日本脳炎ウイルス感染並びに免疫に関する実験的研究
- 日本脳炎脳内免疫に於ける中和抗体脳内Concentrationの本態に関する一考察