渇水対策としての人工降雪効果の試算
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概要
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奥利根流域(群馬県北部)は利根川最上流部に位置する多雪地帯であり,融雪を利用したダム運用が春先から初夏にかけての利根川流域への水資源の供給に重要な役割を果たしている.一方,利根川流域は1都5県2900万人の飲み水を支えているが,2~3年に1回程度の割合で渇水が頻発していて,さらに将来の気候変動による降雪量の減少の影響も懸念されている.このような状況の下,冬期間の降雪量を増やし,水資源を安定確保するための人工降雪技術についての基礎的調査が実施されてきた. <BR>本研究では人工降雪技術がどの程度渇水対策に寄与できるのか,数値モデルを用いて検討した.即ち, 2006/2007年冬期間の奥利根流域を対象として,雲解像非静力学大気モデル(NHM)による人工降雪の数値実験結果と積雪融雪モデル・流出モデルを用いて,ダム流入量およびダム貯水量に対する人工降雪の効果を定量的に評価した.この結果,人工降雪を行うことで融雪期(4~6月)の総流入量は矢木沢ダム域で17 %,奈良俣ダム域で20 %増加した.また夏期のダム制限容量に移行する6月30日のダム貯水率で見ると,矢木沢ダムでは70 %から100 %に,奈良俣ダムでは83 %から93 %に増加した.さらに初冬期の貯水率を下げることで渇水を想定した貯水量の計算を行ったところ,人工降雪により渇水を軽減できる可能性が分かった.これらのことから,人工降雪とダム運用を併用することが,今後の気候変動に対して安定的に水資源を確保するための有効な手段の1つであるといえる.
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