海水中の鉛の微量定量とその地球化學的意義:海洋の年齡について
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概要
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1. 石橋及び協力者により途行中の海洋化学研究の主要なるものの一つは, 海洋中の微量元素の賦存に関する基礎研究であり, 本研究も其の一例である. 海洋中にU, Th, Ra等が存在する以上, Pbも当然存在すべきであろう事を予期して本研究を企図したのであつた. その結果, 石橋, 田中(1939)は, n×10<SUP>-3</SUP>mgPb/Lなる1. 石橋及び協力者により遂行中の海洋化学研究の主要なるものの一つは, 海洋中の微量元素の賦存に関する基礎研究であり, 本研究も其の一例である. 海洋中にU, Th, Ra等が存在する以上, Pbも当然存在すべきであろう事を予期して本研究を企図したのであつた. その結果, 石橋, 田中 (1939) は, n×10<SUP>-3</SUP>mg Pb/Lなるを認めた. 次で黒田和夫氏 (1940) は, Dithizone法を海水に適用して1~4×10<SUP>-3</SUP>mg Pb/Lを認められた. 石橋, 早川 (1942) は更に石橋, 田中の実験を検討しつゝ詳細に行つた結果, 次の分析数値を得た. 10<SUP>-3</SUP>mg=γ單位で示す.<BR>2~3γ/L海水和歌山県瀬戸臨海実験所沖で採水<BR>2~3γ/〃 兵庫県明石沖で採水<BR>約1γ/〃 北緯25°00′東経143°40′で採水<BR>2. 本実験に於て石橋等は, Cu<SUB>2</SUB>SとPbSとの共沈法を行い, 之にスペクトル分析法を併用した. 而して沈澱の完全さの程度を確かめる爲にThBを放射指示体に用いてPbSの洗澱率を決定した. 之は戦後流行しようとするTracerの活用に対する先驅的研究であると云うことができる.<BR>3. 現今海洋に於けるUとRaとの存在量が大約放射平衡の関係にある事より, Pbが其の最終崩壤物質であろうと推考しても無理はない. 依つて海水中に存在するPbの由來に就て次の様に假定しても無理は生じない. 1) このPb (206) は主として海水中のU, Raから産れたのであろう. 2) 陸地又は海底から海水中に移入したPbがあつたとしても, その中のPb (RaG=206) に隨伴して母体のU, Raも殆ど同時に移入したことであろう.<BR>4. 然らば岩石, 地層等の年齡算定に関する方式を海洋に適用し, 海水中のU及びPb (RaG=206) の現在量より海洋の年齡を次の様に算定することができる. Uの量2γ/LはH. Wattenberg (1938) の数値を用い, Pbの平均量を著者等は2γ/Lとした.<BR>RaG/U+0.58RaG×7400×10<SUP>6</SUP>years<BR>2/2+0.58×2×7400×10<SUP>6</SUP>=46.8×10<SUP>8</SUP>years<BR>5. この大約50億年なる数値は, 従來算出された海洋の年齡に比して頗る大である。海洋の年齡についてはJ. Joly (1899) が0.976×10<SUP>8</SUP>年と算出して以來, 更に大なる数値が人により提唱されている. 著者等の計算に用いたUの量はWattenberg (1938) の数値から採つたのであるが, この2γ/Lなる数値は修正せらるべきものかも知れない. 事実後年Wattenberg (1943) は1.5γ/Lと改変している. 又著者等は海水中のPbを全部RaG (206) より成るものと仮定して計算したが, 之は実際に即さない事が明らがである. RaG即ち原子量206のPbは, 多分その一部をなすに過ぎないかも知れない (陸地では23.5%). 従つて上の計算に用うべきPbの量を精確に求めるには海水中のPbを分離して, そのものゝ原子量を測定し, それより原子量206のPbの含有量を決定する必要があるのであつて, 著者等は之を今後に期している. 斯して敍上の算定によれば, 海洋の年齡は約50億年より小さく約10億年 (46.8×10<SUP>8</SUP>×0.235=11×10<SUP>8</SUP>) より大きな数となるべきである. 著者等は本報告に於て, 従來法よりも遙かに科学性に富む海洋年齡の新算定法 (其の一) を提案する次第である, 続いて石橋, 原田の新算定法 (其の二) を報告するであろう.<BR>6. 苦汁中にはPbを検出し得なかつた事より, 製塩作業にあたつて, Pbが析出固形物中に移行し苦汁中に入らない事は, 恰もAu, Ra等の場合に類似するを知ることができた.
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