超分子アスファルテン凝集緩和技術
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概要
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重質油アップグレーディングにおいて,コーク前駆体の形成をいかに抑制できるかが一つの鍵である。アスファルテンは凝集構造を形成することが知られており,それがコーク前駆体の根源となり,結果的に触媒劣化を引き起こすものと考えられる。ここでは,超分子アスファルテン凝集緩和技術(SMART)を用いたアスファルテン凝集緩和法の一例を紹介する。アスファルテン凝集体の特性を次の分子シミュレーションを用いて解析した。減圧残査から得られたアスファルテンを試料として,分子力学,分子動力学計算で最少エネルギーコンフォメーションを決定した結果,数種の非共有相互作用によりいくつかの分子が凝集した構造が最安定化構造であることが明らかとなった。既に分解反応が起こり始める673 Kにおいても,芳香環-芳香環スタッキング相互作用は安定に存在することから,この安定な凝集体が後段の分解プロセスにおいてコーク前駆体になり得ることが推定される。2種類の溶剤を用いた前処理によるアスファルテン凝集体の変化が分子シミュレーションにより追跡された。キノリンを用いた場合,573 Kの処理においてスタッキング相互作用の一部が緩和される一方,1-メチルナフタレンでは,そうした変化は見られなかった。これを実験で確認するために,オートクレーブ試験を実施したところ,573 Kで1時間キノリン中で前処理を行うことで,後段の713 Kでの熱分解においてコーク生成が抑制されたが,1-メチルナフタレンではコーク生成量にほとんど変化が見られなかった。これらの理論解析と実験結果から,キノリン前処理では一部の芳香環スタッキングが緩和されて分子運動性が増加し,結果として芳香環同士の縮合反応による高分子化反応が抑制されたものと考えられる。その結果として,後段の熱分解でのコーク生成量が相対的に低くなったと推定された。アスファルテンの全体の凝集エネルギーにおける各種相互作用の寄与率が独自のシミュレーション法により推算された。芳香環-芳香環相互作用は最も大きな寄与で,約50 %であった。一方,脂肪族側鎖の絡み合いおよびヘテロ原子の寄与は,それぞれ27 %,20 %であった。こうした相互作用が協同的に働き,安定した凝集体を形成しているものと考えられる。
著者
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佐藤 信也
(独)産業技術総合研究所 エネルギー技術研究部門
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鷹觜 利公
(独)産業技術総合研究所 エネルギー技術研究部門
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鷹觜 利公
(独)産業技術総合研究所 エネルギー技術研究部門新燃料グループ
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佐藤 信也
(独)産業技術総合研究所 エネルギー技術研究部門新燃料グループ
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田中 隆三
(一財)石油エネルギー技術センター 石油基盤技術研究所
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- 訂正:第56巻第2号(3月号)61頁掲載の論文に下記誤りがありました。お詫びして訂正いたします。
- Specific Asphaltene Aggregation in Toluene at Around 50 mg/L