ラット実験う蝕に関する基礎的研究 : 短期実験う蝕系におけるう蝕発生ならびに微生物動態の連続的観察
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概要
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短期飼育のラットう蝕実験系を用いて, 日数経過に伴うラット臼歯の初期う蝕発生状況を検索してう蝕発生様相を解明するとともに, 口腔微生物の生化学的性状変化および量的な動態をも検索し, う蝕発生の初期状態における口腔環境の解明を行った。<BR>う蝕発生様相に関しては, シヨ糖添加のう蝕誘発性飼料投与開始後すみやかにう蝕病巣が出現し始め, 以後急速に増加し実験開始後15日目には全裂溝の80%にう蝕病巣が認められた。さらに, その発生増加は, 初期発生から約6日間は等比級数的な増加を示すことが見出された。また, シヨ糖非添加の飼料で飼育した群では, 実験群と比較してう蝕罹患が明らかに低く, 短期飼育実験でも投与飼料による本質的なう蝕発生の差が認められた。<BR>一方, 口腔微生物の動態を知るために, 歯牙に存在する数種の微生物について検索したところ, ある種の微生物について経時的な出現率の変化を認めた。ところで, S. mutansについては, その出現率および菌数の点からもう蝕罹患の低いシヨ糖非添加群に少ないという結果は得られなかった。次に, 糖分解能を中心にした生化学的検索によると, シヨ糖添加飼料飼育群から釣菌したS. mutans株はシヨ糖を強く分解するのに対して, シヨ糖非添加飼育群から釣菌したS. mutans株はシヨ糖を余り分解せずむしろブドウ糖やデンプンに対してpHを強く低下させていることが判った。<BR>以上のことから, 急速な初期う蝕病変の発生進行には微生物の数よりもその生化学的性状変化がより大きく影響すると推察され, 口腔内に絶えずシヨ糖が存在するような環境下では, 口腔微生物はその環境の影響を強く受けて生化学的性状を変化させ, う蝕の発生進行に強い影響を与える可能性が示唆される。<BR>したがって, う蝕の予防や抑制の観点からは, 食餌環境や口腔微生物をはじめとする口腔内環境の早期の把握とその評価がきわめて重要であるといえる。
- 有限責任中間法人 日本口腔衛生学会の論文