温熱環境の免疫反応に及ぼす影響 : (2) 高温環境のマウス抗体産生能に及ぼす影響
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概要
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近時,冷暖房設備の発達普及と共に急激な温熱環境条件の変化に暴露される機会が増大している。一方,暑熱に対する体温調節の中枢が存在する視床下部前部の破壊がラットにおいて顕著な抗体産生抑制効果を示すことが知られている。我々は前回の低温環境の実験にひきつづいて,高温環境が視床下部刺激を介して抗体産生に如何なる影響を及ぼすかを調べた。実験動物としてdd系雄性マウス(体重15 to 17g)を1群10∼12匹として使用し,25°C RH 60%の人工気候室(照明07:00∼19:00の明暗12時間交替)及び湿度,明暗とも同条件の33°C, 35°C, 36.5°C,及び38°Cの人工気候室を使用した。羊赤血球浮遊液(SRC)を腹腔内注射するてとによって抗原刺激とし,免疫反応は脾プラック形成細胞(PFC)の数及び血中抗体について血球凝集反応(HA),血球溶血反応(HR)の測定を抗原刺激後3∼26日間経時的に行ない,次のような結果を得た。1. 33°Cあるいは35°Cに3週間馴化したマウスは,25°C馴化マウスに比して,抗体産生能に殆んど差異は認められなかった。しかし体重減少の著しい36.5°C馴化マウスはPFC, HA, HRとも免疫反応の全経過を通じて明らかな低下が認められた。2. 25°C馴化マウスを抗原刺激直後,より高温の環境へ移動した場合の免疫反応もマウスを移動した環境温度の高低により異なる結果を得た。すなわち,33°Cの環境温度にマウスを移動させた場合には,25°C継続群に比し,反応の初期では抗体産生能が増強された。PFCの数は後期において逆に低下が早く,反応全体が前方にずれる傾向がみられた。しかし,35°C, 36.5°C, 38°Cなどの35°C以上の環境温度に移動させた場合には,マウスの抗体産生能は免疫反応の全経過を通じて一様に抑制された。以上,1. 2.の結果より,マウスの体重増加が遅延する程度の高温度環境では,その温度に馴化した場合も,あるいは抗原刺激後,その環境に移動させた場合も抗体産生が全般的に抑制されるてとが判明した。3. 高温に馴化したマウスを抗原刺激と共に25°Cに移動させた場合の免疫反応は明確な一定の傾向がみられなかった。すなわち,33°Cから25°Cに移動したマウスのHA, HRは33°C継続群に比べ低下する傾向がみられたが,36.5°Cからの移動群のPFCは36.5°C継続群に比べ促進する傾向がみられた。4. 免疫反応に最も影響を与えるような環境温度の変化が,25°C及び33°C馴化マウスを用いて調べられた。25°Cから33°Cの変化に際しては,環境温度を変化させた後3日目に抗原刺激を与えるてと,また33°Cから25°Cの移動の場合には移動後1日目に抗原刺激を与えるてとがそれぞれ最も影響が顕著になるてとが観察された。5. 25°C馴化マウスを抗原刺激後,36.5°Cあるいは8°Cに午前,午後各1時間ずつ暴露したマウスの抗体産生はいずれも25°C継続群に比べ,はっきりとした差は得られなかった。
著者
-
藤田 紘一郎
東京医科歯科大学 大学院 国際環境寄生虫病学分野
-
藤田 紘一郎
Section Of Environmental Parasitology Department Of International Health Development Division Of Pub
-
菊池 正一
順天堂大学
-
片山 誠
順天堂大学医学部衛生学教室
-
藤田 紘一郎
順天堂大学医学部衛生学教室
-
月舘 説子
順天堂大学医学部衛生学教室
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