低級アルキル水銀化合物の毒性に関する研究
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概要
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低級アルキル水銀化合物の亜急性ないし慢性毒性に関する研究は,最近数多く行なわれているが,生体内の水銀動態を追求したものは少なく,特に低級アルキル水銀の形態をくずさず測定を行なったものはなかった。著者は新たに確立されたガスクロマトグラフィーによるアルキル水銀化合物の超高感度分析法を全水銀定量法と併用し,諸種低級アルキル水銀化合物の生体内分解,排泄,蓄積などの状態を追求しつつ,毒性に関する一連の実験を行なった。使用したアルキル水銀化合物は,メチル,エチル, n-プロピル, n-ブチル水銀に,それぞれl-システインを加えたmercaptide水溶液で, ICR系ハツカネズミ, wister系シロネズミ,およびイエウサギに対し,種々の濃度,期間別に投与し,急性毒力や慢性毒性を調べ,各臓器中の有機水銀量,全水銀量を測定し,検討を加えた結果は次の如くであった。1) 低級アルキル水銀の急性毒力(LD50)はそのアルキル基の炭素数の増加とともに増強するが,水俣病様症状を示す亜急性,ないし慢性毒力は,逆にその炭素数の増加とともに減少し, n-ブチル水銀では,当該毒性を示さない。2) 四種の低級アルキル水銀の生体への吸収,臓器分布,分解,排泄などの状況は,ほぼ同一であり,n-ブチル水銀化合物でも,微量継続径口投与した動物の脳内に相当量検出される。従って,水俣病様症状の発症性はアルキル基の構造に左右されるものと思われる。3) 径口投与のアルキル水銀は, 24時間以内にほぼ完全に吸収されるが,生体内で徐々にC-Hg結合が切れ,主として水銀塩の形で排泄され,生体内ではより低級,あるいは高級のアルキル水銀に変わることはない。亜急性,ないし慢性中毒症状の発現は,最低級三者のアルキル水銀の蓄積によって起こるものである。