聴覚の年齢的な変化
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
(研究目的) 聴覚の老化現象は末梢内耳と中枢神経聴覚路の両者の退行性変化に起因することが知られている.<BR>著者は各年齢別の男性および女性に, 内耳および中枢性難聴診断のための聴覚検査を行うことにより, 生理的な老化の過程において, 末梢内耳と中枢神経聴覚路における聴覚機能の低下がどのように進行してゆくのかを解明しようと試みた.<BR>(方法) 30歳から5歳きざみに79歳までの特に難聴・耳鳴等の積極的な訴えがなく, 耳疾患および音響外傷等の既往のない健康な男女各10名ずつ計200名に対して下記の各種聴覚検査を行った.<BR>(1) 気導および骨導純音最小可聴域値検査, (2) 補充現象検査, (3) TTS現象検査, (4) 通常の語音検査, (5) 周波数歪語音検査, (6) 時間歪語音検査, (7) 両耳合成能検査, (8) 方向感検査.<BR>(結果) 1) 純音聴力域値検査では気導と骨導との間には殆んど差は認められなかった. 中音域平均聴力損失値は全症例において30dB以内にあったが, 高音域平均聴力損失値は加齢と共にその値の大きな例が増加した.<BR>2) 補充現象検査では陽性例は男女ともに50歳代まではあまり多く存在せず, 60歳代, 70歳代になってから増加した. この結果から, 内耳コルチ氏器における加齢変化は高年齢になってから起るものと考えられる. また補充現象陽性例の出現率の男女差については, 男性の方が陽性例の出現率が高かった.<BR>3) TTS現象検査では陽性例は全症例中1例も存在しなかった.<BR>4) 通常の語音検査では最高明瞭度値の低下する異常例は男女ともに60歳代までは少なかったが, 70歳代になると急激に増加した. しかし, 最高明瞭度値の低下の程度は極めて軽度であった.<BR>5) 周波数歪語音検査および時間歪語音検査では最高明瞭度値の低下する異常例は40歳代前半から50歳代前半にかけて増加し半数に達し, 更に加齢と共に増加した. この結果から中枢神経聴覚路における加齢変化は年齢的にかなり早期から起るものと考える.<BR>6) 両耳合成能検査では最高明瞭度値の低下する異常例は男性では40歳代後半, 女性では50歳代前半より増加した.<BR>7) 方向感検査では異常例はわずかに高年齢者の2例にのみ認められた.<BR>以上述べた2) および5) より, 生理的な聴覚の老化の過程においては, 中枢神経聴覚路における変化の方が内耳コルチ氏器における変化よりも早期に起るものと考える.
- 社団法人 日本耳鼻咽喉科学会の論文