聴覚の時間的積分機構に関する研究
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概要
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例えば, absolute threshold, masked threshold, differential threshold, loudnessの如き音感覚は, 信号音の強さや周波数のみでなくその持続時間によっても変化する. こうした事実は, 聴覚系が時間軸に対しても音powerを積分する能力のあることを示している. すでに多くの研究者たちがこの現象に興味を持ち, そのうち何人かは数学的モデルや電気的等価回路によるシミュレーションを試みた. 併し, 聴覚系の時間的積分機構に関しては未だ充分解明されたとは言えない.<BR>そこで, 著者はこの機構を解明するため, 短音 (1秒以下の) を信号音に用いて, 正常耳を対象に, 短音の閾値およびloudnessにおけるintensity-duration functionを系統的に検索した.<BR>得られた実験結果を要約すると下記の如くである.<BR>1) Absolute thresholdの場合―信号音の持続時間を10倍にすると閾値は10dBの率で変化することから, 持続時間200msec. 以下では原則的には音powerは時間軸に対して直線的に積分される. 併し, この閾値の変化率は, 非常に低い周波数や高い周波数の純音や広帯域雑音を信号音とした場合には, 時間の1 log unit当り10dB以下となる. これは耳の感受性が周波数によってそれぞれ異なるためと考えられる.<BR>2) Critical duration (すなわち, 閾値が定常状態に達する最短時間) は, ほぼ一定で約250msecである.<BR>3) Masked threshold (すなわち, 同時に定常状態の雑音が存在する場合の短音の閾値の場合) ―もし, そのthreshold intensityをS/N比で表現すれば, そのintensity-daration functionは, absolute thresholdの場合と本質的には差がない.<BR>4) 閾値上の場合-ある短音 (500msec以下) が定常状態の音 (500msec) と等しいloudnessになるためには, その強さを増してやらなければならない. 併し, 信号音の持続時間の差によるこのintensity levelの差は, intensity levelが上昇するに従って次第に減少する. 例えば, 500msec音と5msec音に対するloudness levelの差は閾値附近では約18dBであるが, この差はintensity levelが10dB上昇する毎に2dBずつ減少し, 閾値上60dBにおいては約6dBとなる. 更にそのcritical durationもintensity levelが上昇するに従って次第に短縮する.<BR>5) 上述の実験結果ならびに聴覚系の神経生理学的諸知見に基づいて, 聴覚系の時間的積分機構についての新しいmodelを提唱した.
著者
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