硝子熔解槽爐に於けるコルハートの侵蝕現象に就て
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概要
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コルハート・ブロックは硝子熔解槽爐材として之に比肩するものゝない耐蝕性を有する。 その原因は鑄造耐火物に特有な結晶質組織を有するのみでなく, 之を構成するムライトが特殊の侵蝕現象を營むことに因るものと考へられる。 故にこの現象を闡明にしてコルハートの合理的使用に資せんがために次に總括する樣な研究を行つた。(1) 實際槽爐の各部に長期間使用されたブロックに於て熔融硝子と接觸した部分は特別の場所を除けば常に變質層により被覆され, 又素地に對し下向きに位置した部分には鐘乳状侵蝕跡を示す通性を認めた。(2) 是等侵蝕部の構造的關係を顯微鏡的に觀察し, 且新に生成した物質の光學分析を行つた。(3) 侵蝕に與かつた硝子にしてコルハートの周圍に隨伴せるものゝ性質を吟味し, 侵蝕反應が熔融硝子に及ぼした影響を檢討した。(4) 前項の諸結果を綜合してコルハート・ブロックの侵蝕機構を考察し, 侵蝕現象は次の3段の階梯を經て行はれるものと推定される。 即ち (i) 熔融素地の觸媒的作用によりムライトの解離を起し, コルハートの表面にはコランダム變質層を形成する。 (ii) 該層の表面のゴランダム結晶は硝子素地と徐々に反應してネフェライト質層を生成し, 之が變質層を被覆する。 (iii) ネフェライト質層が熔融硝子中へ擴散同化して始めてコルハートの熔融が行はれる。 この3階程がある均衡を保ちつゝ順次コルハートの内部へ進行するのが侵蝕機構の常套で, かゝる場合をコルハートの常態侵蝕と稱し, コランダム層及びネフェライト層を一括して保護層と見做すのを妥當とする。(5) 前記の侵蝕機構が内的又は外的原因により均衡を失つた場合には局部的に侵蝕速度を異にすべき結果を招來し, 鐘乳状侵蝕状態の如き奇形を呈することを説明した。 かゝる場合をコルハートの異常侵蝕と稱することにした。(6) コルハートの常態侵蝕は硝子素地に特別の影響を及ぼさないが, 異常侵蝕の場合には硝子内に結石を發生せしむる傾向が多い。 かゝる結石は核心にコランダム或はネフェライト等の結晶物を胚胎する。 然るに是等の異物のため周圍の硝子板部に生ずる歪はシヤモット爐材から誘導された結石の場合に比し特に板破損の原因となるほど有害な種類でないことを明かにした。本問題の研究に當り援助を與へられた工場の各位に對し, 又本研究の一部を發表するの機會を與へられたる旭硝子株式會社試驗所長難波元弘博士並に本社當局に對し感謝の意を表す。