標準試料と高純度物質の分析
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概要
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標準試料の重要性 過去20年間の分析化学の発展はめざましいものがあり,各種の分析機器の進歩発達がその大きな原動力となっていることは申すまでもない.ところで,多くの機器分析にとってまず必要となってくるのは標準試料である.一方,標準試料は分析所,分析者あるいは分析方法の違いより生ずる分析結果の異同を論ずるためにも重要な役割りをもっており,原材料物質をはじめ諸種の製品が広く交易されている現在,国際的にも重要なものとなっている.<BR>標準試料は,目的とする分析試料と同様な成分で,物理的な諸性質も同じであることが望ましく,かなりの量を少なくとも目的成分については偏析がなく,均一に作ることが必要であり,信頼できる分析値がつけられていなければならない.これらの諸条件を満足するような標準試料の作製は非常にむずかしく,分析値を出すための作業には,多大の労力と多くの分析者の協力を必要とするのが普通であり,ややもするとこの作製は敬遠される傾向を生ずるのは無理からぬところである.<BR>一方,分析所間あるいは分析者間の分析結果の差異をできるだけ少なくし,混乱を生じないようにするための一つの手段として,分析方法の調整または規制がある.関係者間で分析方法を約束することがしばしば行なわれているし,わが国では多数のJIS分析法が制定されて関係方面に多大な貢献をしている.筆者もいくつかのJIS分析法の検討に参加し,多数の関係者が献身的な協力をしている実情に敬服しているが,正直なところこのように分析方法を取りきめることにつき,次のような不満を感じている.<BR>第1に規格分析法は広く一般に行ないうる方法である必要から,必ずしも現時点における最もすぐれた手段は採用されていないこと.第2に機器分析においては分析機器の型式で操作条件が変わってくることが多く,画一的な条件を規定するのに無理を生ずる場合があること.第3に分析者にはそれぞれかなりの個性があり,極端な表現をすれば最もよい分析結果を得るためには,みずからが検討開拓した方法が最もよいはずであること.第4にJIS分析法は3年ごとに更新されるようになってはいるが,規制された分析法があると往々にしてこれにこだわり,新しい分析法の採用または開拓の意欲が弱められること.<BR>このような欠点は標準試料を強力にとりあげることにより,ある程度解決するのではないかと考える.標準試料の分析結果が,一定の許容範囲内にはいるような分析方法はどのようなものを行なってもよいと規定するならば,分析者はみずからの最も得意な方法を行なうことができるし,機器分析の条件は厳密なことまで論じなくてもよくなり,すぐれた新しい分析方法が積極的に採用され,また開拓されていくことになろう.<BR>もちろん,標準試料の作製は困難な仕事であり,すべてのものの標準試料を期待することは無理であり,また,標準試料があればどのような分析上の問題も解決すると考えるのは正しくない.しかし分析規格を検討するような過程で,同時に標準試料の作製について積極的に考慮しておくことはきわめて有益であろう.現在,わが国ではアメリカなどに比べて標準試料に対する一般的認識はさほど高くなく,作られている標準試料もわずかである.分析化学の国際的な地位は決して低くないのであるから,優秀な標準試料の作製は十分可能なはずであり,今後この面で大いに努力し,国際的にも通用する標準試料を多数作っていくべきではなかろうか.座長 本島,健次(日本原子力研究所)<BR>標準試料による分析感度の向上について取りまとめを依頼された.当所ではその経験が浅く,取りまとめ担当には不適任と思われるが,関心が深いのであえて現状をお知らせしてご指導を仰ぐことにした.<BR>以下標準試料の使い方,標準試料の種類,標準試料の作り方と標準値,高純度物質の標準試料および高純度物質の不純物分析について述べる.
- 社団法人 日本分析化学会の論文
著者
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