各種条件下におけるコルチ器細胞内電位に関する実験的研究
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概要
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1. 目的:各種の条件負荷による有毛細胞障碍時にCochlear Microphonicsの著明な減少とは対照的に全く正常値のEndocochlear Potentialが検出されることが知られているが,この際のコルチ器細胞内電位の態度について明確な報告がなされていない.このコルチ器細胞内電位の態度についてhairの観察を併せ行い検討を加えた.2. 実験方法:正常成熟モルモットを用い,硝子毛細管電極の正円窓膜,基底膜経由誘導法によるコルチ器細胞内電位の基礎的検討を行つた.次いでAnoxia,音刺激,KGI溶液による鼓室階灌流,Kanamycin等の負荷による細胞内電位変動を検討したが,有毛細胞およびhairの組織学的検索はsurface preparation techniqueに依つた.3. 結果:1) 電位記録細胞のmarkingを併せ行うことにより従来Corti内負電位と漠然と呼称されていた電位を明確に有毛細胞内電位(INP)として取扱うことが可能になった.2) Marking法によるCorti器細胞内電位の観察では外毛細胞で約70mVの負電位を示し,内毛細胞では60mVから80mVの種々の負電位が観察され,支持細胞では80乃至90mVの負電位を示した.3) EP,CMのAnoxia時におけるOvershootの差に関れんしINPのAnoxia時における変動を観察したが3分間のAnoxia時および回復時においては常に正常電位を保持した.4) 4KHz,6KHz,8KHzのIntense toneとAnoxiaの二重負荷によりINPの変動を観察したが3分間のAnoxia時および回復時に特に変動は見られなかつた.5) 高張KCI(1 Mol,3 Mol)および等張KCIにより鼓室階灌流を行いINPの変動を観察したが高張KCIによる灌流ではINPは全く消失し,その変化は不可逆的であつたが等張KCIではTNPは軽度の低下が認められその変化は可逆的であつた.6) KM中毒物において,EPが充分高くINPが正常の時期にCMが低下する動物群ではATPaseによるhairの検出が困難となる。更に障碍が進むにつれ,細胞体のmarkingも困難となつた.以上からCMの発生根源にはINP,EPが必要であるが,微細な電位変動を示す要素は,INPによつて示されるwhole hair cellの電位ではなくcuticular plateおよびその突起であるhairの機能的活性度であろうと推論した.
- 社団法人 日本耳鼻咽喉科学会の論文