モルモットにおけるAsebotoxin III による中枢性肺出血の機序
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概要
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ツツジ科植物アセビの有毒成分であるasebotoxin III(ATX-III)2〜8μgをモルモットの側脳室内に投与すると,出血性肺水腫が起こり死亡する.その出血性肺水腫の機序を検討した.剖検上,肺に著しい出血がみられるが,他の臓器にはみられず,むしろ虚血性であった.この肺出血による致死は,phentoloamine mesylate 1mg/kg i.v. 前投与によって完全に抑制されたが,chlorpromazine hydrochloride 10mg/kg i.v.,guanethidine sulfate 20mg/kg i. v.,reserpine 5mg/kg i.m.,hexamethonium bromide 5mg/kg i.v. 前投与では有意に死に至るまでの時間を延長した.urcthane麻酔下のモルモットの側脳室にATX-IIIを投与すると全身血圧は2峰性の昇圧反応を示し,胸部レントゲン像および胸部インピーダンスプレチスモグラムにより第2峰の頂点に出血がおこることが明らかになった。心電図の所見で第2峰の昇圧反応の極を中心に不整脈が現われ,その後,出血性肺水腫の発現に伴うST,Tの下降が著明に観察された.この2峰性の昇圧反応における第2峰は,6-hydroxydopamine前処置で発現が遅延し,抑制された.また,ATX-IIIの脳室内投与後に視床下部より誘導した脳波は,投与前に較べて著しく高頻度化,低振幅化が,次いで棘波の群発が観察された,以上により,ATX-III側脳室内投与によって生ずる肺出血の機序を次のように推定する.すなわち,側脳室に投与されたATX-IIIが視床下部に拡散して視床下部の交感神経性反応のニューロンを脱分極せしめ,交感神経の急激な発射を引きおこす.その結果,カテコールアミンの放出による血管収縮とそれに伴う血圧上昇が起こる.さらに血圧に対する血管抵抗の差から,体部循環系から肺循環系へ血液の移動が生じ,肺胞上皮の毛細血管圧の著しい上昇となる.これらを経て肺水腫を生じ,血管が損傷して出血がおこるものと思われる.
- 社団法人 日本薬理学会の論文