B型慢性肝炎におけるTGF-βシグナル伝達
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概要
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慢性的なB型肝炎ウイルス(HBV)感染は肝発癌の主要な因子である.慢性肝炎の数十年後に約30–40%の症例が肝硬変へと進行し,年率1–5%の確率で肝癌を発症する.しかしB型肝癌は肝炎初期や若年者にも発症することがあリ,HBV自体の発癌関与が示唆される. HBx蛋白はB型慢性肝炎の発癌に関わると言われている.HBxは直接DNAに結合はしないがp38やErk,JNK等のMAPK経路を活性化により,肝癌細胞の増殖,浸潤が抑制出来ない状態に陥る. TGF-βの働きは肝癌においては複雑である.TGF-βは肝炎初期においては腫瘍増殖に抑制的に働く一方で,発癌過程後期になると癌化に促進的になる.TGF-βはTGF-β I型受容体とJNKを活性化させ,それぞれリン酸化Smad3C(pSmad3C)とリン酸化Smad3L(pSmad3L)の2つのアイソフォームに変換される. 免疫組織染色,イムノブロッティング,in vitro kinase assayを用いて,90症例のB型慢性肝炎,肝硬変,肝癌組織とHBxトランスジェニックマウスの生検組織を比較した.さらにpSmad3リン酸化と患者の臨床経過との関係も示した.炎症ではなく,HBV-DNA量に依存してJNKを介したSmad3Lのリン酸化は増強した.またHBxトランスジェニックマウス,B型慢性肝炎共に肝癌の進行に伴って肝細胞でのpSmad3Lは増強しpSmad3Cは減弱した.肝癌発症は高pSmad3L群28例中6例,低pSmadL群32例中1例で認めた(log-rank = 0.03).一方,高pSmadC群では発癌が抑制された(log-rank = 0.009). 本稿ではSmad3のリン酸化に焦点を絞り,HBV関連発癌におけるTGF-βシグナルについて検討する.