蠶卵の漿液膜色素生成に與るホルモンと遺傳因子との關係
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概要
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1 黒卵種 (WPR) 又は白卵種 (wPR) の蠶兒の卵巣を赤卵種 (WPr) 蠶兒に移植すれば, 移植卵巣は宿主蠶兒より羽化する蛾の體内に於て極めてよく發育し得ても, 宿主蛾の自體卵巣より産下する卵の漿液膜の色に對して何らの影響をも與へない。赤卵種蠶兒の卵巣を白卵種又は黒卵種の蠶兒に移植し, 移植卵巣が宿主蠶兒より羽化する蛾の輸卵管に連結して卵の産下を起し得た場合, その卵の漿液膜の色には何らの變化をも認むるを得ず移植卵巣給與者品種固有の赤卵である。これらの事實より, R因子は母體内の諸組織又は卵巣に於て漿液膜色素の生成に與るR物質の生産を假令行ふとしても, それは滲出性物質即ちゲン•ホルモンと呼ばるべきものではない。2 R因子が母體内に於て滲出性物質の生産を行はないことは宇田の卵色に關する交雜結果を考察しても分かる。同樣の考察をP因子に就て行へば, P因子も亦滲出性物質の生産を行はないものと思はれる。3 黒卵種又は赤卵種の蠶兒の卵巣を白卵種蠶兒に移植すれば, 移植卵巣が宿主蠶兒より羽化する蛾の體内に於て發育する時, 宿主の卵巣から産下される卵の漿液膜には卵により濃淡はあるが藤色々素の生成がみられる。白卵種蠶兒の卵巣を黒卵種蠶兒に移植し, 移植卵巣が宿主蠶兒より羽化する蛾の輸卵管に連結し卵の産下を起し得た場合, それらの卵には何れも等しくその漿液膜に濃い藤色々素の生成をみる。これらの場合の着色效果は, W因子に基く滲出性物質によつて起るものと考へられる。宇田の交雜結果も亦W因子のみがホルモンの生産を行ふことを示してゐる。4 W滲出性物質は卵巣のみならず母體の諸組織によつても生産される樣であつて,卵は漿液膜色素の完全なる生成を起すに充分なる該物質を具へて産下される。之に反しP物質及びR物質は産下後卵内に於て生産されW物質と協同して色素生成に與る。田島の結果よりP物質及びR物質の生産及び作用は漿液膜細胞内にて行はれ, 何れも非滲出性物質と考へられる。5 W滲出性物質を具へざる卵がW因子を有する精子によつて受精されるとき, 不完全な色素生成のみられるのはW物質が卵内に新しく生じた細胞によつて或る程度生産される結果であると考へられる。