マウス下顎臼歯発育の遺伝学的研究 : 形態的形成過程における遺伝要因と環境要因の影響の変化について
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概要
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マウス下顎臼歯および下顎骨について, その形態学的形成の過程における遺伝要因と環境要因の寄与ならびに, 発育に伴うそれらの変化を明らかにするため, A/Jax, CBA/Jax, C57BL/6Jax の3近交系を用いて総あたり交配実験を行ない, 次の結果を得た.1. 下顎の3本の臼歯の大きさには系統差があり, M1とM2はCBA系が最も大きく, A系とC57BL系はほぼ等しいが, M3ではC57BL系>CBA系>A系の順である.2. 系統間遺伝率はM1(0.77)とM2(0.86)で高い値を示したが, M3は0.51で著しく低い. Wearden(1964) の数学的モデルに従って求めた分散成分を見ると, M1とM2では遺伝分散が約80%を占め, 環境分散は20%に達せず, 母体効果は事実上0であるが, M3では遺伝分散は26%の低値で, 母体効果分散が40%, 環境分散は34%で, M1, M2よりも著しく高い.3. 臼歯の大きさと生後1週齢の体重との相関は系統と歯種によって一定しないが, 3週齢の体重との相関はどの系統でも M1<M2≪M3であった.4. すなわち遅れて形成されるM3は, 遺伝子型効果よもり母体あるいは母乳を通じての母体環境の影響を含めた環境の影響を最も強く受けるものである.5. A系, CBA系および CBA♀×A♂ 交配からM3の欠如した個体が出現した. 分析の結果, これらの系統ではM3の分散が大きいこと, 歯が小さいこと, ことにM1とM2に対するM3の相対的大きさがC57BL系に比べて著しく小さいこと等が認められ, これらが歯の欠如と何らかの関係を有していることが考察された.6. 下顎骨の大きさについて臼歯と同様の遺伝学的分析を行なったところ, 増齢に伴って遺伝率の増加することを認めた.7. 臼歯および下顎骨について得られた知見と, Monteiro and Falconer (1966) のマウス体重についての研究結果に基づいて, 遺伝子型効果, 母体効果, および環境要因による効果の相対的比重が, マウスの日齢とともに変化する様相を模式図で示し, 考察を加えた.
- 日本遺伝学会の論文