大腸菌の性決定因子に関する遺伝学的研究 : 日本遺伝学会賞受賞講演
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概要
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1. 人為性転換: アクリヂン色素でF+(雄株) やF (雄株) を遺伝的に安定なF- (雌株) へ性転換することができる. 性転換率はアクリヂン•イオンの濃度, 処理条件での菌の増殖, F因子の遺伝的状態によって決る. この遺伝的転換はアクリヂン色素で直接変異が誘起されるためにおこり, 色素による淘汰作用はない.得られたF-はFやF+へ復帰変異しないことは, Fを失ったためにおこる変異であることを意味する. Hfr (雄株) にはこの効果がない. 以上の結果はF因子は染色体上の状態と染色体外の状態があることをしめす. 2. F因子と染色体片との複合体F: Fと種々の染色体片との複合体Fを分離した. F8は Gal (ガラクトース醗酵性遺伝子), F13は Pur (プリン合成遺伝了) Mb (メチレン青感受性遺伝子) T6 (T6ファージレセプター遺伝子) Pho (アルカリフォスファターゼ遺伝子) Lac (乳糖醗酵性遺伝子), F15 は Thy (チミヂン酸合成醗酵遺伝子) Arg2 (アルギニン合成酵素遺伝子一2) F9は His (ヒスチヂン合成遺伝子) を含む染色体片をもっている. Fは細菌の染色体とは独立に自律的増殖し, 高い感染性をもち細菌の接合によって伝搬される (Fダクションという).FはFと同様に宿主染色体を伝搬する作用をもっている. またFは大腸菌, サルモネラ菌, 霊菌などに感染し, これをうけとった菌は安定なヘテロヂノートを作る.3. Fの遺伝子a.染色体伝搬能: 不活性なF因子の突然変異体を分離したが, その大部分はF pili を失っている. 不活FはRにより染色体伝搬能とF pili 形成と同時に恢復する. すなわちFとRとは染色体伝達に共通の遺伝子がある.b. 自律的増殖能を決定する遺伝子: 放射性燐32PでFを強く標識して原子崩壊させてそのボリヌクレオチド鎖を切ると, Fは自律的増殖できなくなる. Fに近い末尾の部分は失われるが先頭の部分はヘテロヂノートの状態に保たれる. これはFの両端に位置する機能の異った2種の遺伝子があり, これらが協力して自律的増殖を行なうことをしめす.c.バクテリオ•ファージの増殖を阻害する遺伝子: テンヘレートファージタウはF-に溶菌斑をつくるがF+にはつくらない. Fはタウの増殖の後期を阻止するためにおこる. 溶原化の率もF+がF-より少ない.4. 諸種の遺伝子座位の決定: Thy (チミヂン酸合成遺伝子) は Arg2 (アルギニン合成酵素遺伝子一2) に接し, Ade (アデニン合成遺伝子) と Sm (ストレプトマイシン抵抗性遺伝子) 座の間に位置している. またMb(メチレン青感受性遺伝子座) は Pur と Pho の間にある. Tdr (TDP-L-ラムノース遺伝子座) はHis (ヒスチヂン遺伝子座) に極めて近接して位置し, Rec-BF23 (バクテリオ•ファージBF23に感受性の遺伝子座) はM(メチオニン遺伝子) に近接して Ara (アラビノース醗酵性遺伝子) との間に位置する.5. Fの起原: FにはR因子, コリシン因子と類似した性状, すなわち細菌の接触による感染性, 宿主染色体の伝搬性, 自律的増殖性がある. これらの性質を決定する遺伝子の多くは互に共通しており, 自律的増殖性を除いては相補性をもっている.