光トポグラフィ
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概要
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光トポグラフィは光を利用した脳機能計測法である.fNIRS(functional near-infrared spectroscopy,機能的近赤外分析法),光脳機能計測法など,様々な呼称があるが,いずれも同じ方法をさす.脳は領域によって機能が異なる.たとえば,目を開けて物を見れば,後頭部にある視覚野という領域の神経が活発に活動する.このような局所的な神経活動を,グリア細胞の一種であるアストロサイトが感知し,血管の拡張を引き起こす.これによって,局所的な血流量が上昇し,神経細胞の活動に伴う酸素補給を支える.この結果,脳活動時には,局所的血流量は増加し,新鮮な動脈血が流れることとなり,全体的には酸素化ヘモグロビン濃度が大幅に上昇し,脱酸素化ヘモグロビン濃度は減少する.光トポグラフィは,この脳血流動態変化を近赤外光によって計測する.頭皮上から脳へ光を当てると,一部の光は脳組織を通った後,反射して頭皮上に戻ってくる.光はヘモグロビンにより吸収されるため,この反射光の減衰度合いの経時的な変化から,脳内ヘモグロビン濃度の変化が分かる.光トポグラフィの利点は,非侵襲な脳機能計測中,最高レベルの測定の簡便さと自由度の高さである.fMRI(機能的核磁気共鳴撮像法)では,被験者を狭いスキャナーに拘束して計測を行う必要があるが,光トポグラフィは日常的な環境での計測が可能であり,多様な実験をサポートするという点で,脳機能計測法としてのポテンシャルは高い(図1).光トポグラフィの原型は1977年,米国,デューク大学のJobsisによる開発に遡るが,近年の急激な普及は,1995年,日立製作所の牧らによる多チャンネル計測技術の確立に拠るところが大きい.現在,数十チャネルからなる多チャネル計測器が,数千万円程度で購入可能である.脳の構造画像と機能画像が同時に得られるfMRIと異なり,光トポグラフィ単独では脳の構造画像の取得ができないという問題があったが,近年,筆者らは,計測点の位置情報を,コンピュータシミュレーションによって算出するバーチャルレジストレーション法を開発し,この問題を解決した.このような方法論の充実によって,近年,光トポグラフィ研究の適用範囲は広がりつつある.しかし,味覚感覚処理に関連する脳領域が脳の深部にあり,計測がほぼ不可能であるという理由により,食品研究への応用はこれまで遅れていた.しかし,筆者らは味覚の高次脳処理研究に光トポグラフィを応用し,味覚情報の記憶研究,官能評価中の脳機能モニタリングなど,先駆的研究を実施している.また,嚥下障害のモニタリングなどの臨床的な応用も進みつつある.
- 2007-08-15
著者
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