ゲノム情報を活用したダイズにおけるマーカー選抜育種システムの構築
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概要
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ダイズは良質なタンパク質と脂質を豊富に含むため、食品や飼料、さらには工業原料として需要が高まり、世界的に増産が続いている。北南米を中心にこの20年間にダイズの作付面積は1.8倍に増加した。さらに、1996年から除草剤耐性ダイズの商業栽培が開始されたこともあり、この20年間で世界平均単収は1.4倍に増え、2.5トン/haに達している。その結果、生産量は約2.5倍となった。一方、日本の平均単収は1.7トン/ha(2006年)であり、自然災害による減収を差し引いても、この20年間ほとんど向上していない。このため、日本の自給率は約5%、食用に限っても約20%であり、国産ダイズの増産を可能にする安定多収品種の開発が強く求められている。良質でかつ病害虫抵抗性や耐湿性、収量性に優れた品種を開発するためには、対象形質を広く遺伝資源に探索するとともに、見いだされた形質を優良品種へ迅速に導入する必要がある。そこで、2007年から農林水産省委託プロジェクト「ゲノム研究成果を活用した大豆等イネ科以外の新品種開発」を開始し、対象形質を遺伝的に解析し、可能ならば遺伝子を単離し、対象形質の遺伝子型によって交配後代を選抜するマーカー選抜育種の導入を進めている。私たちの研究グループでは、国内で開発されたSSR(simple sequence repeat:単純反復配列)マーカーとSTS(Sequence Tagged Site)マーカーを米国農務省で開発されたSSRマーカーとともに3つの分離集団を用いて解析し、1つの連鎖地図に統合した。この統合連鎖地図には総計1,811個のPCRマーカーが含まれ、平均して1.4cMに1個のマーカーが位置づけられている。加えて、すでに座乗領域が決定されているSSRマーカーが他に約400個あり、ほぼ1cMに1個という高密度でPCRマーカーが開発されている。次にこの連鎖地図全体をカバーするSSRマーカーから377種類を選定し、主要品種と重要な遺伝資源を含むダイズ87品種・系統について多型解析を行った。各マーカーの遺伝子型に基づいてクラスター解析を行ったところ、日本品種と外国品種、野生種の大きく3グループに分かれた。また、各グループ内は品種・系統の由来する地域によって細分され、各地域の品種が比較的限られた遺伝子型によって構成されていることが示された。一方、近年は海外の有用遺伝資源を用いた品種育成も進んでおり、マーカー解析の結果からも他グループの遺伝子型の流入が確認された。このことは、遺伝的多様性を高めても日本品種に求められる栽培特性や種子品質を維持できることを示している。耐湿性や機械化適性などの新規形質の改良にはより広範に遺伝資源を探索する必要があると考えられ、有用形質の探索と遺伝解析を機能的に実施できる利用体制を整備する必要がある。
- Institute of Radiation Breeding, Ministry of Agriculture & Forestryの論文