遣外使節と求法・巡礼僧の日記 (日記の総合的研究)
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概要
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本稿は共同研究「日記の総合的研究」の二〇一〇年度の研究発表を文章化したものである。様々な日記一覧表の劈頭を飾るのは『伊吉連博徳書』であり、これが現存最古の「日記」とされる。これは斉明五年遣唐使の顛末を記したもので、二隻の遣唐使船の編成、難波三津出発以降の渡海の様子と入唐後の唐での諸行事が日次記風に記されており、これが最古の「日記」とされる所以である。ここには記録というものが発生する一つの場を予見させる。日記一覧の中にもいくつかの渡航体験に関わる日記の存在が知られているが、公家記録ほどにはその日記としての特色が探求されているわけではないと思われる。そこで、今回の共同研究の一隅として、まずは遣外使節、九世紀の入唐求法僧や十世紀以降の巡礼僧の日記について知見を整理することにした。「天平勝宝二年遣唐記」の名称から考えて、遣唐使は使節任命時から起算するものであることがわかる。そうすると、任命時から何らかの記録を作成するのか否か、国史掲載のいくつかの遣唐使の詳細な帰朝報告との関係、また遣唐使の官員個々人が作成した記録の有無など不明の点が多い。次に平安時代の求法・巡礼僧の日記を検討すると、彼らは正規の国使ではないが、帰国時などには捧呈する日記に基づいて種々の尋問、成果の確認などが行われており、海外渡航の正統性を裏付ける材料として、日記の公的な性格が窺われる。また後続の渡海者のガイドブックとしての利用、先例を知るための参照材料、さらには聖遺物として寺門興隆を保障する信仰対象などの位置づけも看取されるところである。これらは公家日記では明らかになっている事柄を確認したに止まるという懸念も大きいが、求法・巡礼僧の日記は原本(自筆本)が伝来するものはなく、原形の復原をさらなる課題として、日記の考察を深化していきたい。
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