ニホンジカが多雪地域の樹木個体群の更新過程・種多様性に及ぼす影響
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概要
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ニホンジカ(シカ)の過採食圧下にある日本海側針広混交林において,防鹿柵内外での樹木個体群の5年間の変化を調査した。調査地では地形に対応して樹木群集の組成が変化するため,尾根地形に発達するアシウスギ変群集と谷地形に成立するサワグルミ群集で調査を実施した。地上高130cm以上の個体の直径階分布は,アシウスギとブナにおいて柵内外ともに負の指数分布型を示し,調査期間を通じて大きな変化はなかった。それに対し,低木層(50-130cm)では,両方の群集において柵外で構成種数が減少した。この結果は,低水層に分布する高木性種の稚樹や低木性種が,シカの影響によって消失していることを示唆している。シカの採食が今後も継続した場合,アシウスギ変群集では,不嗜好性種であるアシウスギが単優占する種多様性の低い林分へと移行すると考えられる。一方で谷地形上のサワグルミ群集では,オオバアサガラやテツカエデといった不嗜好性種から成る疎林へ移行する可能性がある。柵外での樹木群集の種多様性を維持するためには,森林内のシカの生息密度をさらに減少させる努力が必要であると考えられる。また,柵内は森林下層の稚樹の個体密度と種数が増加したが,再生してきた群集には撹乱依存的な樹種が多く含まれ,気候的極相下での群集組成とは異なっていた。シカという撹乱要因に対する樹木群集の回復可能性を評価するためには,柵内の過渡的な群集がどれほどの時間スケールで極相状態に近づいていくのか,もしくは復帰できないのかを,長期観測していくことが重要と考えられる。
- 2012-09-00
著者
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高柳 敦
京都大学農学部
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高柳 敦
京都大学農学研究科森林科学専攻
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高柳 敦
京都大学大学院農学研究科
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Takayanagi Atsushi
Graduate School Of Agriculture Kyoto University
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SAKAGUCHI Shota
Division of Forest and Biomaterials Science, Graduate School of Agriculture, Kyoto University
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高柳 敦
京都大学農学研究科
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