中国における農地貸借の促進要因・制約要因に関する研究
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概要
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中国においては,農家の経営耕地面積規模が著しく零細であり,そのことが農業の生産性の上昇を阻害している。生産性を引き上げるためには,適正な耕地面積の確保が必要であるが,農地の私的所有が確立しておらず売買が認められていないもとでは貸借による農地の移動が重要な意味をもつ。本研究は,中国における農地貸借のメカニズムを,その促進要因と制約要因の面から明らかにすることを課題とした。調査は福建省永安市の二つの村を選定し,2005年と2007年に行った。近年,農地の賃貸は急速に増加しつつあり,その背景に土地再配分の停止,都市部の経済発展による兼業機会の拡大,商品作物の導入,穀物契約買付任務の廃止などがある。土地再配分の停止によって,農地の利用権を長期的に維持することができるようになった。兼業機会の拡大は自己保有の農地を貸し出す条件を広げている。穀物契約買付任務の廃止と商品作物の導入は,農民の自主的な経営と農作物の販売による現金収入の確保を可能にし,耕地面積を拡大することへのインセンティブを生みだした。一方,農地の賃貸を制約する要因も存在する。その一つは農地利用権に対する農民の不安もなお払拭されていないことである。早い時期に農地の再分記を止め,農民の利用権を確定した村民グループでは農地賃貸の割合は高いが,そうでない村民グループでは賃貸は少なかった。利用権が不安定なことによる農民の警戒心の現われと考えられる。兼業については,自営兼業者においては農地を貸し出す割合が高いが,雇用労働者にあってはその割合は低い。これは雇用労働者の就業が不安定であり,病気や年をとった後の生計の基盤として農地を簡単には手離せない状況にあることの反映と考えられる。このことから,農地の賃貸を更に拡大するためには,農外における就業条件の改善が重要な課題である。商品作物については,技術指導と流通機構の整備が必要である。また,農地利用権を農民との合意のもとに確認し, より安定させることが重要である。
- 食農資源経済学会の論文
- 2009-03-00
食農資源経済学会 | 論文
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