メタン発酵消化液の液肥利用とその環境影響に関する研究
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概要
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本研究では,プラントの運転データの解析.ライシメータ試験による窒素溶脱量および温室効果ガス発生量の測定,メタン発酵システムの温室効果ガス初出量の算定等を通じて,消化液を液肥として利用する家畜排せつ物のメタン発酵システム導入に伴う環境影響を検討した。得られた結果を以下にまとめる。 第Ⅳ章ではメタン発酵プラントにおける運転状況の現状把握を行うために,運転記録や原料,生成物等の成分分析結果からメタン発酵過程,消化液固液分離過程での重量および炭素,窒素,リン,カリウムの収支を求めた。また生成される消化液および消化液を悶固液分離した液分である脱水ろ液の肥料特性について考察した。その結果,原料に含まれる窒素やカリウムは,メタン発酵過程において減少せず,消化液に移行した。一方,原料の乳牛ふん尿中に発酵不適合物である敷料のオガクスが多量に混合していたため,メタンとして取り出せた炭素は,投入された原料に含まれる炭素の9.8%にとどまった。メタンの生成効率を高めるためには,プラントと畜産農家が一体となって取り組む(畜産農家が敷料の少ない飼養形態に切り替えるなど)必要があることが示唆された。消化液,脱水ろ液は,アンモニア態窒素とカリウムを多く含み,速効性のNK肥料であると判断された。また,脱水ろ液として利用する場合,固形分を取り除いているため取扱性が向上している反面,固液分離にコストがかかることや,原料に含まれる窒素の約半分が利用できないなど肥料成分の損失が大きい等の短所があることが明らかとなった。 第Ⅴ章では,消化液の黒ボク土畑への施用に伴う環境影響を把握するため,消化液,硫酸アンモニウムをそれぞれ施用したモノリスライシメータを用いて,作物への窒素吸収量,温室効果ガス発生量,窒素溶脱量を調在した。2年間における調査の結果,施用した窒素に対する作物吸収,溶脱,温室効果ガスである亜酸化窒素の発生の割合は,消化液区で27%,44%. 0.41%,対照区である硫安区で32%,46%, 0.11%であった。消化液は,硫安とほぼ同等の速効性肥料として作物に利用されるとともに,硫安と同様の窒素の溶脱特性を示した。消化液を化学肥料の代替として利用した場合でも地下水の硝酸態窒素汚染を助長する恐れは少ないと判断できる。しかし,消化液施用に伴う亜酸化窒素発生量は硫安を施用した場合よりも多く,農地レベルでは消化液を施用した場合の方が地球温暖化を助長すると結論づけられた。 第VI章では,千葉県香取市で著者らが行っているメタン発酵を中心としたバイオマス利活用の実証試験の実測データを用い,消化液を液肥として利用するメタン発酵システムの温室効果ガス排出量の削減効果を検証した。その結果,メタン発酵システムにコジェネレーションなどを導入し,消化液の散布範囲を適切に設定すれば,液肥利用型メタン発酵システムは二酸化炭素排出量を削減できるシステムであることが示された。また,化学肥料製造や消化液の排水処理に伴う温室効果ガス排出を考慮に入れると,液肥利用型のシステムは消化液を液肥として利用せず,排水処理して河川放流するシステムに比べて二酸化炭素排出量が少ないシステムであることが示された。 消化液は化学肥料とほぼ同等の肥料効果があり,化学肥料を代替できることが示された。また,消化液を液肥利用した場合の環境負荷については,農地レベルでは窒素溶脱量が化学肥料とほぼ同等である一方,消化液を施用した場合の亜酸化窒素の発生量は化学肥料を施用した場合よりも多く,消化液の液肥利用は農地レベルでは地球温暖化を助長することが明らかとなった。しかしコジェネレーションの導入や化学肥料使用量の減少等による温室効果ガス削減効果が,農地レベルでの杭室効果ガス排出量の増加分を上回った。そのため,一連のプロセスで評価すると,消化液を液肥として利用するメタン発酵システムは,温室効果ガス排出量を削減できるシステムであるといえる。 以上より,家畜排せつ物のメタン発酵において,消化液を液肥として利用することにより,メタンとしてエネルギーを得られると同時に肥料成分を有効利用でき,また環境負荷の低減に貢献できると結論づけられた。
- 2011-02-00
著者
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