大学農場生産の経済的評価
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概要
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大学の農場における果樹(ナシとブドウ)とジャムの生産は,生産額としては年間それぞれ600万円,300万円に達し,機械や労働の費用を考慮しなければ,500万円と130万円の粗所得を農場にもたらしている.果樹生産の場合,生産に用いられた労働投入を費用として計上しなければ,投資収益率は果樹生産の場合で実に30%という高い水準にある.これは,大学における収入という観点から見れば,驚くほど効率のよい収入源であるといってよい.ジャム生産の場合,同投資収益率は3%と推定される.収益率としてそれほど高いものではないが,ジャム生産が多くの特殊な固定資本を必要とする「装置型生産」であること,また経常財投入集約度の高さを考慮すれば,正の収益,正の所得をもたらしていること自体が特筆されてよいであろう.果樹についてもジャムについても,教育と研究という主目的を達成した上で,さらに収益性を向上させる可能性も存在している.しかし生産に用いられたスタッフの労働投入の経済的費用を計算に入れると,どちらの場合も利益は負となり,企業的な経営としては成立していない.農場の生産は,農場実習や研究という主目的を追求する結果生じる副産物であり,主目的を達成することにより得られる「利益」は計り知れず,企業的経営となっていないこと自体は全く問題ではない.しかし,主目的を達成した後に,正の所得が得られていることは大変好ましい事である.また,より高度な技術を実習等において採用することにより生産性を高め,企業的経営の水準に近づけることは,教育上も望ましい事であろう.そうすることによって農場収入も結果として向上する.果樹生産の場合もジャム生産の場合も,そのような技術向上の余地か存在している.さらに,教育研究上の主目的を達成した上で,より多くの所得を農場にもたらすような技術的,経営的改善の余地も大きいと思われる.ただ,農場生産の高い収益性は,労働費用を無視してよいという特殊性に依存しており,生産物の処分に当り,その販路等の面で一般農家と競合しないような配慮が必要とされている.果樹生産においてもジャム生産においても,機械設備が必要であり,それらの減価償却費用が生産額に占める比率は,前者の場合10%強,後者の場合20%強と推計される.農場生産の問題の一つは,適切な更新制度を欠くため,必要とされる機械設備の多くが通常の償却期間をはるかに超えて用いられていることにあり,それは特にジャム生産の場合に顕著である.国立大学法人における教育研究設備をどのように更新していくかは大きな問題であるが,大学における収入部門の機械設備について,減価償却分を費用として控除,積み立てし,償却期間後にそれらの更新を可能とする合理的な減価償却制度の確立が急務であろう.本稿の推計はそのような制度が経済的に成立しうる事を示している.
- 千葉大学園芸学部の論文
- 2011-03-00
千葉大学園芸学部 | 論文
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