天蚕繭層の構造と煮繭処理特性
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概要
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天蚕繭に適応する煮繭処理方法を見出すための基礎的知見を得る目的で天繭層通気性の測定及び繭糸解じょ張力の解析を行い繭層構造を明らかにした。そして煮繭方法として湿熱前処理,薬品処理,長時間処理等を試み,繰糸試験によってそれらの処理効果を検討した。本研究で得られた結果を要約すれば次の通りである。1.繭層通気性測定装置を試作し,天蚕繭及び家蚕繭の繭層通気性を比較検討したところ,天蚕繭の通気性は家蚕繭に比べかなり悪く(繭層の一方から供給した圧力と繭層を通過した後の圧力との差△Pが家蚕繭に比し平均で4~5倍の値を示した),繭個々の通気性のばらつきも非常に大きいことが知られた。2.天蚕繭の通気性が悪い原因は,シュウ酸カルシウムの結晶粉末が繭層空隙を埋めていること,繭糸相互の接着面積及び膠着力が大きいこと等に起因しているものと推察された。3.天蚕繭,家蚕繭に限らず繭層の厚さと通気度との間には有意な相関は認められず,繭層の厚い繭は必ずしも通気性が悪いとはいえない。4.天蚕繭と家蚕繭の繭糸の解じょ張力波形を比較した結果,天蚕繭の解じょ張力は家蚕繭に比し3~5倍の値を示し,そのばらつき状態も大きく,繭糸相互間に硬膠着点の多く存在することが認められた。5.天蚕繭及び家蚕繭の繭糸解じょ張力の振幅確立密度分布は左側に歪み右側にすそをひいた形を示し,両者とも対数正規分布に従うことが認められたが,その分布状態は大きく異なることが知られた。6.天蚕繭は家蚕繭に比べ繭糸の強力が低いため切断し易く,しかも繭糸相互間に硬膠着点が多く存在するため繰糸中に切断する確率は高い。したがって天蚕繭の煮繭の要諦は,繭糸の湿強力を低下させることなく膠着力を均一に緩和させ,解じょ張力の平均値及びばらつきをなるべく小さくするように処理をすることである。7.天蚕繭セリシンの改質を目的として湿熱前処理(飽和水蒸気処理)を行った結果,110℃5分以上の処理条件下では繭層溶解率が増加する傾向を示し,繭層セリシンは膨潤緩和し易くなるように推察された。8.天蚕繭層へ吸湿した後,湿熱処理を施したところ,吸湿しない場合に比べ繭層溶解率は1.6~1.8倍に増加し,繭層セリシンが膨潤軟和し易くなる傾向を示した。9.煮繭方法として湿熱前処理のほか薬品処理,長時間処理,およびそれらの組み合わせ処理を行い繰糸試験を行った結果,湿熱前処理(繭層へ吸湿した後の湿熱前処理も含む)とマルセル石ケン水溶液による処理を組み合わせた場合及びその長時間処理が天蚕繭に適するものと考察された。
- 農林省蠶絲試驗場の論文