人工飼料による天蚕の無菌飼育
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概要
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人工飼料を用いて天蚕(Antheraea yamamai)を無菌下で飼育する方法を検討し,以下のようにして飼育に成功した。1.天蚕卵は通常塊状をなして産下され,しかも個々の卵の表面は膠状の被膜に覆われている,したがって,この形状のままで殺菌すると,殺菌が不十分で,以後の無菌飼育が不成功に終わる場合が多い。そこで,まず卵塊をほぐしつつ,ついで膠状膜を除去する必要があった。これはプロナーゼPの2%水溶液に浸漬することによって達せられた。なお処理前後の卵表面を走査型電子顕微鏡により観察し,その除膠状態を確認した。2.卵面は孵化の24~48時間前にホルマリン3%水溶液,ホルマリンガス及びエチルアルコール70%水溶液のいずれにおいても殺菌が可能であった。3.三角フラスコ内で飼育を行った場合には次のように行った。減菌試験管内で孵化した幼虫は,予め飼料の切削片を入れた三角フラスコに注意して移した。稚蚕期は100mlのフラスコに1頭づつ収容したが,壮蚕期においては500mlのフラスコを使用した。営繭はフラスコ内において行わせた。4.アイソレータを用いて飼育を行った場合には,アイソレータ内で孵化させた幼虫を用い,飼料の切削片を与えたのち,ほぼ非無菌下飼育に準じた方法で箱飼育を行った。5.人工飼料は1齢期のみクヌギ(Quercus acutissima)などの飼料植物葉の粉末を含むものを用いたが,2齢以降はクヌギなどの植物葉粉末の入らぬものを用いた。飼育期間中の給餌は,各齢期の起蚕時に行ったが,終齢期には齢中さらに1回交換を行った。6.天蚕が小枝上で生活できるよう,あらかじめ滅菌したクヌギの小枝を容器に投入した。その結果,幼虫の取り扱いは小枝とともに行うことが出来たので,これにより損傷が防げた。7.飼育温度は全齢を通じ25℃とし,暗飼育とした。8.蚕飼育成績及び繭成績をみると,従来の非無菌下飼育に比べ,経過日数が長く,繭重も軽いなどやや劣っていた。おのすえ6齢蚕の出現などで問題点が多かったが,その原因については不明である。
- 農林省蠶絲試驗場の論文