常緑広葉樹リーフリターの陽イオン溶出特性に関する実験的考察
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概要
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河畔域から渓流に供給されるリターは膨大な量にのぼると推測され、リターからの溶出物は渓流水質の形成に重要な役割を果たすものと思われるが、溶存態イオンの常緑樹リターからの溶出特性については不明な点が多く残されている。そこで本研究は、おもに室内実験により、南九州地域の山地渓流河畔域に広く生育するシイ(Castanopsis)とアラカシ(Quercus glauca)の落葉からの陽イオン溶出特性の概要を明らかにし、それが渓流水質の形成に及ぼす影響を類推することを目的として行った。宮崎県中央部を東流する一ツ瀬川河畔域を対象に河口から約10km間隔で6箇所の採取地点を設定し、そこに生育するシイとアラカシの落葉(落葉直後のものと落葉後数日を経たもの)を30枚ずつ採取し、十分な洗浄と乾燥の後、各5枚ずつ1000mlの蒸留水中に投入し、(1)自然状態、(2)水温を10、18、25℃に維持した状態、(3)水温を10、25℃に維持しメタンスルフォン酸の滴下によりpHを3〜4に調整した状態、にそれぞれ30日間置いた。投入から1日後および5日間隔で30日後まで水中の電気伝導度(EC)とpHを測定した。さらに投入から30日後に陽イオン(Li(+)、Na(+)、NH4(+)、K(+)、Ca(2+)、Mg(2+))濃度を測定した。実験は2008年5、11月、2009年5月に行った。その結果、常緑樹ではクチン質表皮が分解に伴うイオン溶出と重量損失を遅らせ、相対的に高い水温と低いpHがクチン質の分解とその後の溶出促進に大きく影響していることが推測された。さらに陽イオンのなかでは、自然状態ではK(+)が温度やpHへの依存性が低くもっとも溶出されやすいのに対し、水温を一定にした状態ではCa(2+)が溶出されやすくその度合いは水温が高いほど促進され、さらに相対的に低いpHが温度以上にCa(2+)の溶出を促進する因子であることが解った。Mg(2+)もこれに準じた溶出特性を示した。以上の結果から、常緑広葉樹が優占する山地渓流では、河畔域から渓流に供給されるリターの初期分解過程である溶出段階において放出される陽イオン、とりわけK(+)、Mg(2+)、Ca(2+)が主要供給源であり、渓流水中のイオン組成を規定する一因となり、それは水温のみならず渓流水のpHに強く影響されるうることが示唆された。
- 南九州大学の論文
- 2010-04-00
南九州大学 | 論文
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