イチモンジセセリParnara guttata guttataの卵サイズおよびその表現型可塑性の変異に関する研究
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概要
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本研究では、自然選択の対象である卵サイズおよびその表現型可塑性になぜ遺伝的変異が集団中に維持されるのかというテーマを検証するために、世代間で大きな卵サイズ変異が観察されるイチモンジセセリを対象に以下の実験を行った。1.イチモンジセセリは東日本および西日本では年に3回発生する。その各世代で経験する日長および温度の処理条件で幼虫を飼育し、卵サイズ等の生活史形質を比較した。その結果、最も大きな卵を産む世代に相当する処理条件では大きな卵を少なく産み、反対に最も小さな卵を産む世代に相当する処理条件では小さな卵を多く産んだ。各処理条件で得られた孵化幼虫をそれぞれ2つのグループに分け、発芽後2週間経過した葉が柔らかいイネ、および6月中旬に水田に移植してから6週間経過した葉が硬いイネを与えて生存率を比較した。その結果、最も小さい卵を産んだ処理条件において1齢幼虫の生存率は寄主条件間で異なり、硬い葉を与えたグループで有意に生存率が低下した。これらの結果は、本種で観察される卵サイズの世代間変異は、日長および温度を環境合図として発動する表現型可塑性に起因していることを示唆する。2.イチモンジセセリの卵サイズは世代間だけでなく、同じ世代内の母親間においても変異する。大卵および小卵から孵化した幼虫を同じ寄主条件で飼育したところ、大卵由来の方が生存率が有意に高く、発育期間が短縮する傾向が見られた。これらの結果は、本種の卵のサイズは世代間だけでなく、同じ世代内でも適応度に影響を及ぼすことを示唆する。次に集団中の卵サイズおよびその表現型可塑性の遺伝的変異の大きさを把握するため、多数のブルード(同一の両親由来の子)を複数の環境条件下に分けて飼育し反応規範をブルードごとに求めるというsplit-broodデザイン実験を行った。狭義の遺伝率を推定したところ、卵サイズにおいて高い値を示した。また日長および温度に対する卵サイズの反応規範において、遺伝子型×環境相互作用が検出された。これらの結果は、本種の卵サイズおよびその表現型可塑性にある程度の遺伝的変異が維持されていることを示唆している。これらの遺伝的変異が維持される要因としては、拮抗的多面発現や環境の異質性が重要な役割を果たしていると考えられる。
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