冷水病に強く、良く釣れる人工産アユ種苗の開発と利用--冷水病耐病性、釣獲特性、遺伝的特性の系統間差
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概要
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岐阜県のアユ(Plecoglossus altivelis)漁獲量は1992年の1,726tをピークに減少し、2005年には461tまで落ち込んだ。このアユ漁業不振の原因の一つとして、河川における冷水病の発生が挙げられる。冷水病は冷水病菌(Flavobacterium psychrophilum)を原因とする感染症であるため、その被害を軽減するためには、保菌種苗の移植放流を中止し、河川内への冷水病菌の持ち込みを防止することが重要である。実際、冷水病菌を保菌していない人工産種苗を上流河川に単独で放流することにより、友釣り解禁日までは冷水病の発生を抑制できることが示されている。しかし、おとりアユの移動などによって水域間のアユの移動が活発になる友釣り解禁後については、感染を防止して冷水病の発生を抑制することは困難である。従って、冷水病被害を軽減するためには、防疫による感染防止策だけではなく、感染の拡大を前提とした被害抑制策が必要である。アユの冷水病に対する耐病性には系統差があるため、被害抑制策の有力な選択肢として耐病性系統の利用が考えられる。しかし、耐病性を有するとされる海産系人工産種苗は、漁期前半から中盤にかけての釣獲特性が劣るため、その放流効果は他種苗と比べて必ずしも高くない。そこで2004年より冷水病耐病性と優れた釣獲特性を併せ持つ系統の選抜育種に着手した。ただし、選抜された系統は天然遡上アユと遺伝的に異なり、交雑を介して天然アユ資源に悪影響を及ぼす可能性があるため、その放流は慎重に行なわなければならない。このため、当所は、選抜育種により作出した種苗の放流は複数のダムにより天然遡上アユの産卵場と隔離された閉鎖性水域に限定するという方針のもと、新規人工産種苗の開発に取り組んでいる。選抜によって作出されたこのような種苗を放流魚として利用する場合には、(1)放流種苗としての有用性の確認、(2)天然アユ資源に遺伝的な影響を及ぼさない利用方法の確立、(3)放流によるリスクの回避方法およびその管理に関する流域の関係者の合意形成の三点が必要である。ここでいう有用性とは、開発した種苗が既存種苗より優れた生残性、釣獲特性を有し、高い放流効果を示すことである。本研究では、室内における冷水病の感染試験により新規に開発したアユ種苗(第4代)の耐病性の評価を行い、さらに、実際の河川に放流して、新規開発種苗の河川における冷水病耐病性と釣獲特性を既存種苗と比較した。一方、天然アユ資源に遺伝的な影響を及ばさないという点では、ダム上流域の閉鎖性水域に放流するというだけでは、放流されたアユがダム下流へと流下する可能性を否定できない。そのため、放流エリアの限定に加えて、放流種苗の移動動態を調査することにより、それらが天然アユの産卵場に到達しないことを確認する必要がある。放流種苗の移動動態を調査するためには、追跡したい種苗と他の種苗や天然遡上アユを判別する技術が必要となる。天然遡上アユと人工産種苗は、外部形態、耳石の形態または微量元素分析、遺伝マーカーによる手法などによって識別できるが、今回のケースでは、人工産種苗の中から更に特定の種苗を判別できなければならない。そのためには、生息環境履歴が同様であっても判別可能な遺伝マーカーによる手法が適している。近年、マイクロサテライトDNAマーカーを用いた帰属性解析により、河川で採捕したアユの由来を個体毎に推定できるようになった。この手法を応用すれば、現在開発中の新規種苗と既存の人工産種苗を個体別に判別できると考えられる。そこで本研究では、6種類のマイクロサテライトDNAマーカーを用いて新規に開発中の種苗、既存の種苗、天然遡上アユの遺伝的特性を調査した。
- 2010-03-00
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