暑熱ストレスによる実験動物の生化学的ならびに組織学的変化
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概要
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暑熱環境が生体の生化学的変化に及ぼす影響について検討した。暑熱影響を生化学的観点からみると、肝臓における酸素ラジカルの生成が注目される。酸素ラジカルによる生体高分子との反応による脂質過酸化は生体膜や酵素の変性に結びつくため重要な障害反応と考えられるためである。ラット肝臓の脂質過酸化反応生成物の指標であるチオバルビツール酸反応生成物(TBARS)の濃度変化をみると、30℃では変化がなかった生成も、35℃の暑熱負荷では急激に増加した。ラットとモルモットを比較すると、モルモットは30℃においても若干の増加が認められ、35℃では顕著な増加が認められた。モルモットは暑熱への耐性が弱く暑熱負荷の長期的な実験は困難であった。肝臓細胞内小器官の脂質過酸化は若齢では影響を受けていなかったが、高齢・老齢ラットのミトコンドリア、ミクロゾームでは脂質過酸化が著しく誘導されていた。ラットでは肝臓の細胞質グルタチオンペルオキシダーゼは高体温症で強く誘導されたが、モルモットでは誘導がみられなかった。肝臓カタラーゼ活性は若齢のラットでは暑熱ストレスによる影響を受けていなかったが、高齢・老齢ラットは肝臓、腎臓のいずれの臓器においても減少していた。高齢・老齢ラットにおける肝細胞の小胞体は暑熱ストレスにより変形していたため、ミクロゾームの電子伝達系酵素のアミノピリン脱メチル化酵素やTMPDペルオキシダーゼ活性について検討した。その結果、加齢につれていずれの酵素も活性の低下がみられ、週齢の高いラットでは暑熱暴露によりさらに活性が低下した。暑熱ストレスにより合成する蛋白質の立体構造形成が不安定化することを防ぐ分子シャペロンとしての機能を示す熱ショックタンパク誘導にはモルモットとラットで種差があり、モルモットでは核とミトコンドリアで90-kDaの熱ショックタンパクの誘導が認められ、ラットの単離細胞においては70-kDaの熱ショックタンパクの合成促進が観察された。両種において暑熱ストレスによる細胞機能の変調に対して、分子シャペロン機能を示す防御系が活性化したと考えられる。実験動物に暑熱ストレスを加え、臓器・組織を光学顕微鏡と電子顕微鏡を用いて観察した結果、肝臓、腎臓、心臓、呼吸器系、内分泌系、免疫系などにおいて、暑熱ストレスにより組織的変化が認められた。特徴的な組織的変化は肝臓の静脈周辺細胞の空胞変性、脂質過酸化物に起因するとみられる脂肪顆粒の貯留、欝血などであった。さらに動物の加齢により暑熱ストレスの影響が増強し、適応性が低下していると考えられる老齢期ラットでは顕著に暑熱ストレスの影響があらわれた。35℃の暑熱環境下では、暴露期間が長くなるほど病理組織学的な諸変化が増強していた。臓器・組織における最も顕著な変化は静脈系の拡張であった。心筋の空胞変性とともに、肝臓、腎臓、心臓、肺および骨髄などに欝血の傾向が認められた。この研究により、暑熱ストレスが組織学的変化を伴う生体組織の障害を引き起こすことが判明した。暑熱ストレスの増大は生体諸機能の低下している高齢者や高齢の動物に対し深刻な影響を及ぼすと予想される。
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