幼児の他者の情緒認知における性差
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概要
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本研究の目的は、幼児が他者の情緒を認知する際に、各情緒場面ごとに反応に性差があるか否かを比較検討し、対人認知における認知者と被認知者との関係要因を明らかにすることであった。被験者は幼稚園5歳児60名(男児30名、女児30名)であった。実験はすべて個別的に実施された。まず、各被験者は喜び、怒り、悲しみ、恐れの情緒が容易に感じとれるような物語(各情緒2種類ずつ)を聞かされ、同時に物語の内容を描いた3枚1組の図版を見せられた。図版は主人公が男児の場合と女児の場合の2種類が用意されていた。それぞれの物語(図版)を呈示した後、実験者は被験者に物語の主人公の気持を言語で述べるように求めた。おもな結果は次のとおりであった。(1)情緒の種類を考慮に入れない場合には、他者の情緒認知における性差は見い出せなかった。そこで、情緒の種類ごとに得点を検討した結果、(2)喜びと恐れでは、被験者が男子であるよりも女子であるほうが成績がよく、怒りではこの逆であった。(3)悲しみでは、物語の主人公(他者)が女子である時のはうが成績がよく、怒りでは反対に男子である時のほうが成績がよかった。(4)被験者の性と主人公(他者)の性とを組合わせた場合には、①喜びでは女→男、女→女の組合わせが、②怒りでは男→男の組合わせが、③悲しみでは女→女の組合わせが、④恐れでは女→男の組合せが、それぞれ他の組合わせよりも有意に得点が高かった。(5)怒りと悲しみの情緒場面においては、被験者と物語の主人公(他者)とが同性であったはうが、両者が互いに異性である場合よりも高い得点が得られた。しかし、喜びと恐れの情緒場面においては、両者が互いに異性であったほうが、同性であるよりも高い得点が得られた。
- 奈良教育大学教育研究所の論文
- 1978-03-25