クール司教テッロの寄進文書
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概要
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はじめにクール司教テッロが七六五年に作成したとされる寄進文書は、問題の多い史料として知られている。テッロは、ディゼンティス修道院に豊富な財産を寄進した。このことを伝える文書の内容は、メロヴィング朝末期およびカロリング朝初期における司教の所領支配の態様、あるいはより広くこの時代の国制史像を解き明かすための重要な史料証言のように思われる。しかし研究者の目は一様にして慎重である。あるいは積極的ではないというべきか。たしかにクール司教区は、フランク王国の統治範囲の最辺境地域に位置していた。それゆえに、王国の対外政策を考察する場合をのぞいては、研究対象としての重要性は減じられてしまうのかもしれない。しかし、テッロの寄進文書に対する研究者の慎重な態度はこれに起因するものではない。問題は史料それ自体にある。すなわち文書構成が特殊なのである。現在我々が目にすることのできるテッロの寄進文書は、十七から十八世紀に作成された三点の写本においてである。ただしこれらの写本はいずれも、七六五年のオリジナル文書を底本とするものではない。それゆえにまずその信懲性が疑われることになるが、今のところ偽文書説は否定されている。問題は文書構成にある。現存写本は、単一のテキストがオリジナルそのままのかたちで由来したものではない、というのが目下のところ研究者の一致した見解である。すなわち、複数のテキストの組み合わせ、あるいは後代の文言付加が想定されているのである。本稿では、テッロの寄進文書がそれ自体に内在させている文書構成の問題をめぐって、先行の研究成果を把握し、そのうえでこの文書が史料としていかなる可能性を持つものかを示したい。第一章と第二章では、それぞれシュトライヒャーらの二元性説とマルターラーの文言付加説を紹介する。古典学説とはいえ、両見解を上回る説得的な研究成果は今なお登場していない。ゆえにそれぞれの章に当てて、両見解の論点を詳しく紹介することは十分に意味がある。第三章においては、二元性説と文言付加説以降の議論をまとめ、いくつか問題点を指摘したい。
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