防寒着型(二部式)刺子資料の分析 : 国立民族学博物館収蔵標本による(1)
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概要
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1.資料についての情報(1)刺子とは,古い布きれを重ね合わせて刺し縫いしてつくったもので,激しい労働にも耐えるよう補強させ,また防寒の用も果たすことのできる労働衣服である。ここにみられる資料は,使用頻度が高く(新品もあったが)大半は日常生活の中ではげしく用いられたらしくすり切れ,あて布されたものが多かった。(2)ここであつかった刺子衣資料の被覆部位はいずれも軀幹部であり,形態名称別に分類すると,防寒着型(二部式)の3点である。(3)採集者は,1点はアチック・ミューゼアム同人であるが,他の2点ははっきりしない。(4)採集時期は,1点は1938年であるが,他の2点は不明である。(5)採集地は三重県1点,山形県2点である。(6)呼称は,モッパ,婦人作業衣,刺子上衣であった。2.資料の分析a.形状(1)本資料の構成要素は,身頃,袖,衿から成っている。(2)衿は,袢纒型の2点が一般的な形といえようが,ここではかげ衿の1点も含めた。掛け衿は1点であった。(3)袖は3点とも巻袖で防寒着型である。(4)馬のりは3点中1点あった。(5)つけ紐は,袢纒型ではなく,かげ衿の1点にあり,これはうわっぱり状の外衣として用いたようで,衿の内側と外側に一組ずつの紐がついている。(6)資料の寸法①丈については,最少値91.5cm,最大値94.5cmである。②裄丈(肩幅+袖幅)は,最少値58.5cm,最大値63.0cmである。b.材料(1)織布の材質と柄,染め色①素材はいずれも木綿であり,組織はほとんどが平織りである。②糸密度は表布,裏布とも何枚かの布を用いているため一概にはいえないが,経糸は〔18本/cm〕から〔28本/cm〕までのものであり,緯糸は〔16本/cm〕から〔20本/cm〕までである。③布の厚さは,布重ねの枚数や,身頃の上部,下部,袖,衿,へりとり部分などにより異なるが,0.8mmから6.56mmである。④刺子の合わせ布の枚数は一般には2枚合わせが多いが,ここでは2枚合わせは2点,4枚合わせが1点である。⑤布の重さは,身丈の長さや布重ねの枚数などに大きく左右される。ここでは720gから1320gである。⑥表布の織柄は(複数の布を用いてある場合は主だったものを数える),紺地絣と茶縞のもの1点,紺地白縞のもの1点,藍無地のもの1点である。裏布の織柄は,黒地茶縞1点,浅黄無地1点,藍と浅黄無地のもの1点である。なお表布で,2種類以上の布を用いた資料は2点,1種類の布を用いた資料は1点である。(2)刺子糸,縫い糸の材質と色①刺子糸,縫い糸いずれも木綿糸であるが,両者は必ずしも同じ糸ではない。②刺子糸の撚り方は,右撚りが2点,左撚りが1点である。縫い糸も同衣類で共通しており,右撚りが2点,左撚りが1点である。③刺子糸の色は,白が2点,浅黄が1点である。糸の本数は,1本どりが2点,2本どりが1点である。④縫い糸は刺子糸とは目的が異なるため,地色と似た紺や黒色が2点,白と黒を用いたものが1点である。⑤刺し方は,縦刺し1点,枡刺し1点,模様刺し1点である。刺し方の針目は,〔8針目/10cm〕から,〔18針目/10cm〕であり,その間隔は,〔3本/10cm〕から〔20本/10cm〕である。c.縫い方と裁ち方(1)縫い方①刺子の仕立て方は,単仕立てに準ずるが,布地が厚く,細かく縫うことができないため,また丈夫にするために,背,脇,袖つけなどは,合わせ縫いののち伏せ縫いをすることが多い。ここでは,それに類似したかざりじつけのものも1点あった。②縫い目は,布の厚さにも関係するが,合わせ縫いは,〔8針目/10cm〕から〔12針目/10cm〕であり,伏せ縫いは〔5針目/10cm〕から〔8針目/10cm〕である。縫い方は長着などの仕立てになれた技術で,それに準じて機能性を重視しながら縫っていることがわかる。③周縁部,即ち袖口,裾,衿下などの端の始末の方法は,布地が厚く折りぐけなどがしにくいため,へりをとることが刺子衣の常石であるが,しかしここでは,周縁部にへりとりのあるものは1点のみで,他の1点は裾がすり切れたためか袖口のみ,もう1点はへりとりがなく刺子衣としては特異なものであった。(2)裁ち方①布幅は,並幅寸法としてほぼ一定している筈であるが,手織布や更生布だったりすることや,刺し縫いの縮み分などもあるためはっきりしたことはいえない。ここでは32.5cmから35cmであった。②刺子の場合,古い布をよせ集め,はぎ合わせてつくるため必要用布を推定することはあまり妥当ではないが,掛け衿や,へりとり布を除く衣服としての表布の用尺は,510cmから630cmであった。1反の布から2枚分の外衣をとることが可能である。
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