小児外科の現状と展望 : 特に新生児外科と小児臓器移植について
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概要
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小児外科の近年の進歩はめざましく, 特に新生児外科の分野では, 以前はその国の医療レベルを反映するとまで言われ, 小児外科医がその救命に骨身を削ってきた「食道閉鎖症」の死亡率が著しく低下してきた. 小児外科学会の全国集計によると1973年では死亡率が約55%であったのが, 1983年では30%, 1993年には20%, そして2003年では12.3%まで低下し, 生存するのが当たり前の病気になってきた. 九州大学小児外科では1990年以後の食道閉鎖症は重症染色体異常を合併した1例を除き, 全例生存し元気に成育している. 九州大学における新生児外科疾患の疾患別死亡率の推移を経時的にみると, 症例全体での死亡率は経年的に低下し, 2000年代では新生児外科症例全体での死亡率は10%を切った. しかし, 疾患別にみると横隔膜ヘルニアと消化管穿孔の死亡率がまだ高い. これは横隔膜ヘルニアでは出生前に診断される重症例が治療の土俵に上ってきたためである. 出生前に超音波検査にて診断される横隔膜ヘルニアは左にあるべき心臓が右に変位していることで発見されることが多く, 肝臓や脾臓が胸腔内に脱出している. つまり胸腔内に脱出している臓器のボリュームが大きいため, 肺が極端に小さく生存が困難な症例が多い. また消化管穿孔は1000g未満の超低出生体重児が救命できるようになり, このような症例で消化管穿孔をおこす場合が多くなったためである. 容易に敗血症によるショック状態となり救命困難な症例も多い. 全身的な循環呼吸管理を最優先し手術侵襲は腹腔ドレージのみの最小限にとどめるのが救命率をあげるポイントと考えられる. 新生児外科の症例は出生率の低下にもかかわらず増加傾向にある. 九州大学では特に周産母子センター開設を機に症例が増加している. 小児の臓器移植では, 肝臓移植の進歩により救命困難であった胆道閉鎖症の末期の肝硬変の患者が, 食道静脈瘤の破裂や腹水でおなかがパンパンに張り肝不全でなくなっていたのが, 元気に退院できるようになった. また劇症肝炎で脳症に陥り意識不明になった患児が, 以前では血漿交換しか手の打ちようがなく, 血漿交換がはじまると「もうだめか」であったのが, 移植により普通の生活に戻れるようになった. まさに劇的な治療法である. 小腸移植も小児に多い短腸症候群の根治術として欧米では1000例以上に行われている. 本稿では, 新生児外科疾患のうち, まだ救命率の低い「先天性横隔膜ヘルニア」, さらに「小児の肝臓移植, 小腸移植」について, 我々の経験を中心に, 現状と今後の展望について述べる.
- 2006-04-25
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