脊髄損傷に対する細胞移植療法の現状と展望
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概要
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わが国における外傷性脊髄損傷患者の発生率は,年間100 万人あたり30-40人であり1)2),毎年5000 人程度の患者が新たに発生している.急性期管理の向上により,その死亡率は劇的に減少したものの,永続的な四肢麻痺や感覚障害を中心として,膀胱直腸障害,褥創,痙縮などの合併症に苦しんでいる患者総数は10 万人以上と言われている.現在脊髄損傷に対して行なわれている治療は,麻痺を対象としたものではなく,急性期の全身管理の他,脱臼や骨折部を手術により除圧整復・安定化させ更なる麻痺の増悪を予防するための処置であり,脊髄自体にアプローチするものは存在しない.1990 年代に動物実験や臨床治験により有効性が報告された急性期ステロイド大量療法3)は,期待されたほどの効果は得られず,最近ではその有効性を疑問視した報告4)が散見されるようになり,現在は見直しの時期に入っていると言ってよい.一方で,近年の幹細胞生物学の急速な発展により,胎生期のみならず成体中枢神経にも神経幹細胞が存在することが明らかになり5)〜8),さらには一旦分化した成熟細胞から多能性を有する細胞へと誘導して作製されたiPS 細胞の出現により9),これまで治療が不可能と考えられていた脊髄損傷などの中枢神経疾患に対しても幹細胞による再生医療の期待が高まっている.神経幹細胞は自己複製能やニューロンやグリアへの多分化能のほか,病変部位への遊走能や液性因子による神経保護作用を持つことが明らかにされており,げっ歯類や霊長類を用いた実験により実際に脊髄損傷の病態改善に有効であったとの報告は数多く存在する10)〜15).また,脊髄損傷に対して神経幹細胞のみならず,胚性幹細胞16),骨髄間葉系幹細胞17)18),嗅粘膜細胞19)20)など実に様々な細胞移植の有効性も報告されており,その一部は脊髄損傷患者への臨床治験も国内,海外で試みられている.本稿では,我々が行なっている脊髄損傷に対する神経幹細胞移植実験の結果と共に,実際に脊髄損傷患者に対して行なわれた細胞移植療法による臨床治験の結果や問題点について概説し,今後の展望について考察したい.
- 2010-05-25
著者
-
芝 啓一郎
独立行政法人労働者健康福祉機構総合せき損センター整形外科
-
岩本 幸英
九州大学整形外科
-
岩本 幸英
九州大学病院 リハビリテーション部
-
岡田 誠司
九州大学医学部ssp幹細胞ユニット
-
岡田 誠司
九州大学高等研究機構
-
岡田 誠司
九州大学大学院整形外科/九州大学高等研究機構
-
岡田 誠司
慶応義塾大学 医学部整形外科
-
岩本 幸英
九大 整形外科
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