ウシ精子頭部DNAの全体的なメチル化状態の検討方法の開発
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概要
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CpG 配列におけるシトシン残基のメチル化はゲノムにおける主要なエピジェネティックな修飾であり、遺伝子発現の制御に重要な役割を演じている。 近年、ゲノム中の全体的なDNA のメチル化状態は、薄層クロマトグラフィー、Restriction Landmark Genomic Scanning(RLGS)法やRepresentational Difference Analysis(RDA)法によって研究されている。 しかしながら、これらの方法は複雑であり、制限酵素によるゲノムの処理を必要とする。それゆえに、これらの方法から得られる情報は、使用した制限酵素によって切断できるDNA 塩基配列に限られている。 本研究では、ウシ精子における全体的なDNA メチル化の状態を解析する簡便な方法を確立するために、メチル化シトシンを免疫蛍光抗体染色する方法をウシ精子DNA に用いる方法の開発を試みた。 本研究中のメチル化シトシンの免疫蛍光抗体染色法は、Benchaib ら(2003)がヒト精子を用いて開発した方法を基にした。種間差により、Benchaib らによって開発された方法をウシ精子に用いてもメチル化シトシンの検出ができなかったため、方法中の手技を幾つか変更した。ウシ凍結融解精子はパーコール洗浄によって卵ク液および混入体細胞を分離した。洗浄後、精子を0.25M DTT と1% SDS を用いて 室温にて処理した。処理精子をサイトスピン4 を用いてスライドガラス上へ展開し(30 × g, 5 × 10^4 cells/ml) 室温にて風乾した。風乾した精子標本を室温にてメタノール:氷酢酸(3 : 1)の固定液へ浸漬して固定し、その後、室温にて1% Triton X と1% SDS を用いて処理した。処理後、DNA を6N HCl を用いて変性し、精子DNA 中のメチル化シトシンを免疫蛍光抗体染色法によって染色し、共焦点レーザー顕微鏡を用いて画像を撮影した。撮影された画像を画像解析ソフトウェアによって解析した。 精子頭部中、ヨウ化プロピジウムによって染色された領域を頭部DNA の領域とし、その領域中に存在するFITC の蛍光を示す領域をメチル化シトシンの領域とし、それぞれの領域の面積を画像解析ソフトウェアによって計測し、その面積比を算出した。面積の計測は一定の紫外線強度の下で行われた。精子頭部中の全体のDNA 面積に対するメチル化シトシンの面積比は、種雄牛A においては34.6%(9.98 ± 5.39μm^2, 28.25 ± 4.98μm^2, n=248)であり、種雄牛B においては39.3%(12.29 ± 5.39μm^2, 31.74 ± 5.96μm^2, n=165)、また種雄牛C においては40.6%(13.67 ± 4.84μm^2, 33.70 ± 5.69μm^2, n=46)であった。 種雄牛A と、種雄牛B およびCの精子頭部のDNA メチル化状態には有意な差が存在した(P<0.01)。この種雄牛間のシトシンのメチル化状態の差異が意味することについては、今後の詳細な研究が必要である。