Long Journey of Walrus : a Linguistic Survey
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概要
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In the historical sites of the Okhotsk culture in Hokkaido, some artifacts made of walrus tusk have been found. The fact tells us that there was the walrus tusk trade between Chukchi-Kamchatka and southern area including Sakhalin and Hokkaido. Actually, the trade extended to China, and continued from the Middle Ages until the early 20th century. The present paper is an attempt to trace the route of the journey of walrus linguistically. As a tentative result, a Chukchi word for 'walrus' was borrowed by Even with changing the meaning into 'tusk', and then it spread to most of the Tungusic languages. The Uilta word for 'walrus', which may be a doublet of the word for 'tusk', was possibly introduced into Nivkh and Sakhalin Ainu. Then the Nivkh form for 'walrus' was brought into other Amur Tungusic. Though much more evidence is needed for our discussion, it may hopefully exemplify that linguistic data, as well as archeological materials, may serve as a powerful tool to trace the spread of culture.北海道のオホーツク文化の遺跡からセイウチの牙製とみられる彫像が出土しているが、このことからセイウチの棲息地であるチュクチ・カムチャツカ地域との間に、かつてセイウチの牙の交易ルートがあったことが想定されている。人とモノの流れがあったところに、ことばの行き来もまたあったはずである。特にセイウチのような棲息域の限られた動物であれば、交易品として珍重されたその牙とともに、セイウチや牙を表わす単語もまた北から南へと伝えられたに違いない。本稿はセイウチの旅を言語学的に跡付ける試みである。出発点としてチュクチ語の「セイウチ」をあらわす語が、隣接するエウェン語に「牙」の意味で取り入れられたことを想定する。この語はエウェンキー語を経て、アムール流域のツングース諸語に広がった。これがサハリンのウイルタ語に再び「セイウチ」を表わす語として入り、そこからニブフ語とサハリン・アイヌ語にも伝わったと考えられる。ニブフ語の「セイウチ」はさらにアムール流域のツングース諸語の「セイウチ」の直接の語源となっている。このように、特にサハリン・アムール地域の言語間の関係はなかなかに複雑であり、これをもってセイウチをめぐる語の借用関係が解明されたとは言えない。本稿では、文化の伝播を考える上で言語的データが重要な意味をもつことを例証し、あわせてそうした言語が失われつつある現実にも注意を喚起する。
- 2010-03-31
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