原敬の書(1) その評価をめぐって(書翰の書を中心に)
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概要
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日本初の本格的政党内閣の組閣を行い、「平民宰相」と呼ばれた原敬〔安政三年(一八五六)-大正十年(一九二一)〕の、政治家としての業績や生涯の伝記等については今日に至るまで極めて多くの論評や出版がなされている。原の「書」もそれらの巻頭等に時折紹介されている。しかし、その書の全貌は意外と知られていないし、後で詳述するように評価も定着していない。先年、盛岡市の原敬記念館を訪れ、その書翰を閲覧する機会があった。政治家の書など俗物もいいところと決め込んでいたが、真蹟(注1)を見て、天馬空を駆けるような筆勢と躍動する筆に息をのんだ。筆は書者と一体となりその性能の限りを尽くしているではないか。草卒の書にもかかわらず、微塵の惑いも見せず縦横に運ばれる筆はその場その場で堂々と自在の造形を生み出している。凡庸の力量でできることではないと直観した。以来、原の書を掲載した出版物について努めて目を通した。また、原敬記念館の所蔵品や展示の資料(他機関からの借用資料等)についても種々拝見する機会を得た。その結果、原敬の書は、「書は人なり」という人間性の投影を明らかに示すばかりでなく、芸術性という点でもひとつの水準に到達した書といえるのではないかという思いを強めた。原の書は、多くの人に大きな感動を与えてくれるばかりでなく、さらに書の実作に携わる者にも貴重な示唆を与えてくれるものと思う。本稿では、原の書の中でも、書いた人物の書の実力を最もよく示すと言われる「書翰」に絞って、その書的価値について考察してみたい。
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