商品流通と『着値』 : 遠隔地取引における荷主の価格計算・損益管理
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概要
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本稿では、近世荷主の経営帳簿に記載された「着値」の概念に関する検討を手がかりに、遠隔地間取引をおこなう荷主の価格計算・損益管理の方式について実証的な考察をおこなった。従来の研究では、「着値」の概念やその市場取引において持つ機能について掘り下げた検討がなされてこなかった。紅花生産地帯である羽州村山郡の商人や豪農、京都紅花屋の経営文書の分析から、以下の諸点をあきらかにした。(1)着値とは、商品がある地点に到着する迄にかかった総経費を実際額面ないし単位あたり原価で示すもので、流通過程の諸段階において元値を厳密に示す概念であった。(2)着値は、市場における実際の売買交渉においては荷主にとっての損益ラインを示す単位あたり値段として機能した。(3)荷主は着陸計算を基礎にそれに一定の利潤を上乗せした差値で市場に対する価格要求をおこない、仕切後は商品個々の着値と手取税金を比較し損益計算を実施していた。(4)経営を進展させていた豪農の場合、紅花の銘柄別・産地別あるいは出荷ルート別に損益計算をおこない、さらには中央-地方(産地)の市場相場変動をふまえながら利益予測をおこない出荷形態の選択をおこなうなどの損益管理を展開していた。(5)着値による原価表示・損益計算は村山郡のみならず全国の紅花荷主に共通した方式であった。また、この方式は村山郡の商人や豪農が実施した「のこぎり商い」の帰り荷についても採用されていたことが確認でき、遠隔地間取引における荷主の原価積算および損益記録の方法として広く通用していたことを指摘した。最後に本稿でおこなった考察は、(A)世直し状況論において論点とされた豪農経営発展をめぐる「幕藩制的市場関係の規定性」の実態的な吟味、(B)幕藩制的市場における価格形成のヘゲモニーの実態的な検討、などの課題のための実証的な前提であり、方法的な視点であることを指摘した。
- 2003-03-31
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