新規開業企業の取引関係と成長率
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概要
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企業は有形・無形の経営資源の集合体であり,利用可能な経営資源の量と質が,企業の能力と発展性を規定する。特に開業したばかりの企業はさまざまな経営資源の制約に直面しており,外部の人や組織とのネットワークを通じて,経営資源の制約を克服する必要がある。取引先は,新規開業企業にとって重要な経営資源(調達先,販路)であると同時に,技術,情報,信用等の経営資源の提供者でもある。企業の新規開業には多くの困難が伴うが,これまでの調査によれば,資金調達に次いで大きな困難は取引先の確保と開拓である。しかし,開業時の取引関係の構築はこれまでほとんど調査されず,その経営成果への影響に関する研究も行われていない。そこで本稿では,開業時の取引関係の内容を明らかにし,企業成長に与える影響を計量的に検証する。分析のためのデータは,(財)中小企業総合研究機構が2002年10月に製造業,卸売業,小売業,飲食店,サービス業等の新規開業企業1万社を対象に実施したアンケート調査に基づく。分析対象は,1994年から1999年までに開業し,事業所を主たる販売先とする759杜である。この調査によれば,販売先の確保・開拓の主な方法は,以前の勤務先や既存の顧客からの紹介であるが,約7割の企業は個別訪問や広告,出展のような積極的な売り込みを展開している。また,回答企業の4分の3は開業時の主な販売先からさまざまな支援を受け,開業時の主な販売先と現在も取引を継続している企業は8割を超える。新規開業後の(従業者数)成長率は,企業属性(開業規模,会社形態,経過年数等),経営者属性(年齢,学歴等),産業・地域属性の他に,戦略属性,特に開業後の取引関係(初期の販売先への依存度,主な販売先の属性,主な販売先との関係継続性,主な販売先からの支援の有無と内容,新規顧客開拓戦略)に影響されるという仮説を立て,これを計量分析によって検証した。分析結果は,主な販売先への依存度と取引関係の継続性以外は,仮説を支持している。すなわち,従業者数の増加率は,企業が新規顧客の開拓に積極的であり,開業時に少数の大規模な顧客に取引を集中し,また顧客からの支援を多く得られるほど高いことが明らかになった。特に有効な支援は,技術・品質,経営,資金調達に関する助言である。さらに,開業初期にそのような有益な助言を得られるかどうかは,企業規模と開業の経緯の他に,販売先をどのようなルートで確保したかに依存することが分かった。本稿の分析結果は,開業初期における取引ネットワークの重要性を明確に示すものである。
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