宗教学とその外部 : ヴァールデンブルクの近著,及び宗教学基礎理論に関するその他のドイツ語文献をめぐって
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概要
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【書評論文】概論形式での知識の呈示を前にして抱く想いはひとにより様々であろう。ある者はそこに動的であるべき知の不当な固定化や規範化を見るであろうし,またある者はそこに方向づけのための体系的準拠枠を見出し,まずはこれを肯定的に受け止めるだろう。宗教学について言えぼ,その概論的叙述が内外の研究史の節目節目に現われ特定の機能を果してきたことは,その内容をどう評価するかということとは別に,学史上の事実である。いささか皮肉に言えば,宗教学概論は,ある時はその時代に支配的な「通常宗教科学」を体系的に集約し,またある時はそうした「通常宗教科学」の新たなパラダイムを規範的に生み出したと言える。戦前から続いているドイツのGoschen叢書は我が国の岩波全書の範ともなった概論のシリーズであるが,「体系的宗教学入門」の副題を持つJacques Waardenburg (以下Wと略記)の近著はその一冊として刊行された。すでに長年にわたり宗教学の方法論を集中的に論じてきたWがあえて宗教学の体系的叙述を行ったことは,それだけで十分注目に価する出来事であり,事実ZMR誌などもSeiwertによる異例に長文の書評を掲載している。Wの近著の大きな特徽のひとつは,それが宗教学の基礎論上の問題をある程度集約して,体系的に論じている点にある。そこで以下では書評論文という形で,Wの同書を少し詳しく検討するとともに,同様の問題群を論じた最近のドイツ語文献をも併せ見て,同時に論評を加えてゆきたい。一見したところ多様な問題群を見事に組織化し,極めて整然とした構成をもつ本書が,子細に検討するに従い様々な不備と内的矛盾を露呈せざるをえない理由のひとつは,本書の意図の多面性に求められよう。宗教学全般の入門的叙述と学説史及び方法論の独自の体系的綜合の構想,さらに自己の解釈学的宗教現象学の呈示といった,限られた紙幅の中では共存のむずかしい複数の動機が本書には含まれている。全体の章立ては,I宗教と宗教研究,II宗教の歴史学的研究,III宗教の比較研究,IV宗教の文脈的研究,V宗教の解釈学的研究,となっている。このうちII~IVまでは一般向けの概説の色が濃い部分であるので,特にIとVを中心に,以下に示す四項目から批判的検討を行いつつ,同時に関連する基礎論的諸問題に考察を加えてゆきたい。
- 東京大学文学部宗教学研究室,Department of Religiou Studies. The University of Tokyo,東京大学の論文
- 1989-03-20
東京大学文学部宗教学研究室,Department of Religiou Studies. The University of Tokyo,東京大学 | 論文
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